「おい、イシェ、準備はいいか?」ラーンが陽気に声をかけると、イシェはため息をついた。いつも通りの光景だ。ラーンが興奮気味に遺跡探しの話を始め、イシェが冷静に準備を進める。今回はテルヘルからの依頼で、ビレーから南へ3日ほど行った場所にある、古代の祭祀場跡だと言う。「大穴」の可能性もあるという話にラーンの目は輝いているが、イシェは地図を眺めながら不安を感じていた。テルヘルが口にした「ヴォルダンとの関連性」という言葉が、彼女の心を重くしていたのだ。
遺跡の入り口は、まるで獣の口を開けたように広がっていた。薄暗い内部から冷たい風が吹き出し、ラーンの顔に何かを囁くようだった。「よし、行くぞ!」ラーンは剣を構え、先に進む。イシェもテルヘルの後をついていく。足元の石畳は苔むしていて滑りやすく、イシェは慎重に足を運んだ。
内部は広くて複雑な構造になっていて、壁には古代の文字が刻まれている。時折、かすかに光るものがあり、それは宝石や金属でできた装飾品だった。ラーンは興奮気味にそれらに触れようとすると、テルヘルが制止した。「触らないで。罠の可能性もある」彼女の鋭い視線は、遺跡全体をくまなく見渡していた。
進むにつれて、空気が重くなり、不気味な静けさが広がっていた。イシェの背筋にぞっとするような感覚が走った。そして、突然、壁から激しい音がした。ラーンの剣が痙攣するように震え、彼が驚愕の表情を見せた。
「何だ…?」彼の声は震えていた。壁から何かが蠢いているのが見えた。それは黒く、粘り気のある液体のようなもので、ゆっくりと広がっていった。イシェは恐怖に襲われた。これは一体何なのか?そして、なぜここにいるのか?