ラーンが石を蹴飛ばすと、埃が舞った。イシェが眉間に皺を寄せながら地図を広げた。「あの崩れかけた塔跡、本当に遺跡らしいのかい?」
「ああ、テルヘルが言うにはさ。ヴォルダンとの国境を越えた遺跡の情報らしいぞ。何か重要なものがあるって」ラーンの声はいつものように軽快だったが、イシェは彼の瞳にわずかな不安を感じた。最近、ラーンの動きがぎこちないのだ。まるで何かを我慢しているような。
「あの塔跡は危険だって聞いたことがあるわ。地元の人々は近づかないらしい」イシェの言葉にラーンは苦笑した。「そんなこと言われてもな。俺たちは遺跡探索者だぞ!危険と隣り合わせでこそ、大穴が見つかるんだ!」
だが、イシェは彼の言葉を信じられなかった。ラーンのいつも通りの豪快さは、どこか嘘くさい。彼の手が震えていたことにイシェは気づいていた。
「よし、行こうぜ!」ラーンがそう叫ぶと、イシェはため息をつきながら地図をしまった。「わかったわ。でも、何か変だと思ったらすぐに言うのよ」
塔跡への道は険しく、日差しも容赦なく照りつける。ラーンの動きは、いつもより重たかった。イシェは彼の背中に視線を向けると、汗がにじんでシャツが湿っているのが見えた。
「大丈夫かい?」
ラーンの顔色が悪いことにイシェは心配になった。「少し休もうか?」
しかし、ラーンは首を振った。「いいんだ。もうすぐ着く」と力なく言った。
塔跡に着くと、石造りの壁が崩れ落ち、内部は暗闇に包まれていた。不気味な静寂があたりを支配している。イシェは背筋に寒気が走った。
「ここには何かいる気がする…」イシェが呟くと、ラーンは小さくうなずいた。「俺も…何かが…かゆい」
ラーンの言葉にイシェは驚きを隠せなかった。彼はいつも強がるラーンが、こんなにも脆い言葉を吐くとは思わなかった。そして、その言葉の意味も理解できなかった。
「何をかゆい?」
ラーンは答えず、ただ目をこすった。彼の顔には苦しそうな表情が浮かんでいた。イシェは不安になる気持ちを抑えながら、ゆっくりと塔跡の中へと足を踏み入れた。
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