ラーンの粗雑な剣の振り下ろしが埃を巻き上げ、薄暗い遺跡の奥深くへと響き渡った。イシェは眉間に皺を寄せながら、その背後で慎重に足音一つ落とさないように移動した。
「おい、イシェ!こっちだ!」
ラーンは興奮気味に振り返り、崩れかけた石柱の隙間を指差した。イシェはため息をつきながら彼の後を追う。石柱の陰から差し込むわずかな光が、壁面に刻まれた複雑な模様を浮かび上がらせていた。
「これは…?」
イシェは目を細め、模様をたどっていく。それは明らかに古代文明のものだった。ラーンの興奮も少し沈静化し、二人で慎重に壁面を調べ始めた。
その時、背後から冷たい声が響いた。
「面白いものを見つけましたか?」
テルヘルが鋭い視線で三人を睨みつけている。彼女の後ろには、ヴォルダンの紋章が刻まれた重厚な宝箱が置かれていた。
「なんだ、テルヘル。いつの間に…」
ラーンは驚きの声を漏らした。テルヘルは冷淡に笑みを浮かべる。
「私は常にあなたたちの動きを注視しています。遺跡の奥深くに眠るものは、私たちにとって必要不可欠なものです。」
彼女は宝箱を開けようと手を伸ばす。その時、床が激しく震え始めた。石柱が崩れ落ち、埃が舞い上がる中、イシェはラーンの腕を引きずりながら走り出した。
「逃げろ!遺跡が崩壊する!」
二人の後ろからテルヘルが叫んだ声が聞こえたが、すでに遅かった。崩れ落ちる天井をかわしながら、彼らは出口へと疾走した。石畳の上を駆け抜ける足音、崩れゆく遺跡の轟音、そして彼らの息遣いが重なり合う。
出口にたどり着き、外の世界へ飛び出した時、振り返ると遺跡はすでに瓦礫の山となっていた。テルヘルの姿はなく、宝箱もどこにも見当たらない。
ラーンは息を切らし、イシェに視線を向けると、彼女はただ静かに遺跡の残骸を見つめていた。
「次はどうする?」
ラーンの問いかけに、イシェはゆっくりと答えた。
「次の遺跡へ行く前に、少し休もう。」