ラーンが遺跡の奥深くで歓声を上げると、イシェは眉間にしわを寄せた。いつものように計画性のない行動だった。
「また大発見か?」とイシェはため息をつきながら、ラーンの後を追った。
崩れた石畳の隙間から見えたのは、錆びついた金属製の箱だった。ラーンは興奮気味に蓋を開けようと手を伸ばしたが、イシェが彼の腕を掴んだ。
「ちょっと待て。あの箱は何者かが触れないよう意図的に隠した可能性もあるぞ」
「そんなことより、中に入ってるのが何だ!宝かもしれない!」
ラーンの言葉にイシェはため息をついた。彼には、この遺跡探索の真の目的が分からず、ただ冒険と財宝を求めているように見えた。だが、イシェ自身もどこかで希望を抱き続けている自分がいることを自覚していた。
テルヘルは冷静に状況を分析し、箱の表面にある奇妙な紋章を指さした。「これはヴォルダン帝国で使われていた記号だ。内部には危険な物が入っている可能性もある」
ラーンの顔色が変わった。「ヴォルダンか…」
彼はかつてヴォルダンの侵略で家族を亡くした経験があった。その憎悪は、彼を遺跡探索へと駆り立てていた。
イシェが慎重に箱を開けると、中から出てきたのは、古びた巻物だった。巻物を広げると、そこには奇妙な文字と図形が記されていた。テルヘルが目を細めると、その文字は古代の呪文であることに気づいた。
「これは…危険だ。この呪文を唱えると…」
彼女の言葉を遮るかのように、巻物の近くでラーンの体が痙攣し始めた。顔色が青白くなり、苦しそうに息を切らしている。イシェが駆け寄ると、彼の額から冷たい汗が流れていることに気づいた。
「ラーン!どうしたんだ?」
ラーンは目を潤ませながら、かすれた声で言った。「…熱が…」
イシェは恐怖を感じた。ラーンの症状は、かつてビレーに流行した謎の病気を思い出させた。その病気は、突然発症し、激しい高熱と痙攣を引き起こし、多くの命を奪ったのだ。
「これは…あの病気なのか?」
テルヘルも顔色を失った。「もしそうなら、この遺跡は危険すぎる。すぐに脱出する必要がある」