ビレーの喧騒を背に、ラーンは重い足を前に出す。イシェがいつも通りの眉間にしわを寄せて地図を広げている。「今回はテルヘルのお姉さんの言う通りに、あの崩れた塔からだな」
「またあの塔か…あの辺は不気味な噂が多いぞ」イシェの言葉にラーンは軽く肩をすくめた。「そんなこと気にすんな。ほら、大穴が見つかるかもってんだぞ!俺たち、ついに金持ちになれるぞ!」
イシェはため息をつきながら地図を片付け、後ろから続くテルヘルの足音に気を配った。彼女はいつもより静かで、何か考え事をしているようだ。ビレーを出る際、テルヘルはいつもと違う鋭い光でラーンを見つめていた。その目はまるで、彼の中に何かを宿すかのように燃えていた。
崩れた塔は、かつて栄華を誇った都市の残骸だった。今や荒廃し、苔むした石壁に影が深く刻まれている。塔の中は薄暗く、埃が舞うたびに咳払いをするラーンとイシェの姿が見えた。テルヘルは二人より前に進んでいく。彼女はまるでこの場所を知っているかのように、迷わず進んでいた。
「ここだ」
テルヘルが止まった場所は、塔の一室だった。壁には奇妙な模様が刻まれており、床には朽ち果てた宝箱が転がっている。イシェは慎重に宝箱を開けようと手を伸ばしたが、テルヘルがそれを制した。「待て。これはただの宝箱ではない」
彼女の指先が、宝箱の表面をそっとなぞると、模様が光り始めた。壁にも刻まれた模様が反応し、部屋全体を不気味な光で満たした。突然、床から鋭い石柱が飛び上がり、ラーンとイシェの間を貫こうとした。
「ぐっ…」ラーンの剣が石柱を叩き落としたが、彼の腕には深い傷跡が残った。イシェは驚いてラーンの腕を支えた。「大丈夫か?!」
ラーンの顔は血で染まっていたが、彼は苦笑いした。「ああ、大丈夫だ…大穴が見つかるかもってんだぞ…」
テルヘルは冷めた目で二人を見下ろした。「大穴を求めるのはやめろ。お前たちはもう、この塔の犠牲者だ」彼女の言葉に、ラーンとイシェは戸惑った。その時、テルヘルは自分の腕を差し出した。そこには、まるで呪符のように刻まれた傷跡があった。それは、ヴォルダンに刻まれた疵だった。
「私は復讐のためにここに来た。お前たちは、その道具に過ぎない」