ビレーの酒場で賑やかな笑い声と喧騒が渦巻いていた。ラーンはイシェの眉間に浮かぶ皺を見て、思わず苦笑した。「またあの顔か？テルヘルが本当に遺跡の地図を持ってるって信じるわけないだろ？」
イシェはため息をついた。「でも、あの高額な報酬…正直、少し疑わしいと思わない？」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう！あのテメーの目の前の酒だ！」ラーンは豪快にグラスを傾けた。イシェは苦笑しながらも、ラーンの言葉には内心納得していた。テルヘルが提示してきた報酬額は、彼らにとって夢のような数字だった。だが、その代償として要求されたのは、危険な遺跡への潜入と、そこに眠る遺物の独占権だった。
「あの女のことだ。嘘をつくのも得意だし、裏切るのもためらわないだろう」イシェの言葉は小さく、しかし確信に満ちていた。ラーンは彼女の言葉に少しだけ耳を傾けたが、すぐにいつものように陽気に笑い飛ばした。「大丈夫だ！俺たちがしっかり見張れば、テルヘルは騙せないぞ！」
次の日、彼らはテルヘルの案内で遺跡へと向かった。遺跡の入り口には、奇妙な紋章が刻まれた石碑が立っていた。イシェは石碑をじっと見つめ、何かを感じ取ったように表情を曇らせた。「ここ…なんか変だ…」彼女は呟いた。ラーンは彼女の言葉に耳を傾けず、遺跡内部へと進んでいった。
遺跡内部は暗く湿り、不気味な静寂に包まれていた。彼らはテルヘルの指示に従い、迷路のような通路を進んでいった。イシェは背筋がゾッとするような感覚に襲われ、何かがおかしいと感じていた。彼女はラーンの後ろを歩きながら、こっそりと石碑の紋章をもう一度確認した。その瞬間、彼女の脳裏にフラッシュバックのように過去の記憶が蘇ってきた。
それは、幼い頃に母親から聞かされた昔話だった。その話には、遺跡を守る邪悪な精霊と、それを封印する力を持つ遺物について語られていた。イシェは冷や汗を流しながら、自分の記憶と遺跡の紋章を照らし合わせてみた。「まさか…あの伝説が本当なのか…」
その時、ラーンが突然立ち止まり、鋭い声を上げた。「誰かいる！」
影の中から、何者かが現れた。それはテルヘルではなく、黒いローブをまとった謎の人物だった。彼は冷たい目で二人を見下ろし、「お前たちは騙された」と告げた。イシェは恐怖を感じながら、ラーンに視線を向けた。彼の顔には驚きと怒りが渦巻いていた。「テメーが裏切ったのか！」
「そうだな。お前たちをこの遺跡へ連れてきたのは、あの遺物を手に入れるためだ」謎の人物は嘲笑し、「あの女…テルヘルは、俺の使いである」と告げた。イシェは絶望に襲われた。全ては嘘だったのか…。そして、ラーンの無謀な行動が、彼らを死へと導くのだろうか…。