ビレーの酒場「荒くれ者の休暇」はいつもより騒がしかった。ラーンとイシェはいつものように隅の席で酒を傾けていたが、今日の客層はどこか気が立っているように見えた。
「何かあったのかな？」
イシェが眉間に皺を寄せながら言った。ラーンの視線は、カウンター越しに大勢の人々に囲まれたテルヘルに向いていた。彼女はいつもより表情が硬く、誰かと口論しているようだった。
「まさか、またヴォルダン絡みか？」
ラーンの言葉に、イシェは小さく頷いた。テルヘルの過去についてはあまり詳しく知らなかったが、彼女がヴォルダンへの復讐を誓っていることは知っている。そしてその復讐のために、彼らを利用していることも。
「あの大口の仕事は一体何だったんだろうな…」
イシェは呟いた。テルヘルから請け負った遺跡探索は、これまで以上に危険で報酬も高額だった。彼女はいつもより慎重に情報を伝え、ラーンとイシェには必要最低限のことしか話さなかった。
「きっと何か隠してるよな…」
イシェの疑念は深まるばかりだった。ラーンの楽観的な性格とは対照的に、彼女は常にテルヘルの行動を疑っていた。彼女の目的、そしてヴォルダンとの関係性は何か？
酒を飲み干したラーンが立ち上がった。
「よし、そろそろ行こうか。今日は少し疲れたから早く寝ようぜ。」
イシェはラーンの背中に手を当てながら、彼に寄り添うように言った。
「うん、そうしよう。でも…」
イシェは言葉を濁し、テルヘルの方をちらりと見た。彼女の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。