ビレーの朝 sebelum fajr はいつも薄暗く冷たかった。ラーンが目を覚ますと、イシェがいつものように小さな焚き火の前で座り込んでいた。彼女の顔は影にぼんやりと浮かび上がり、何かを考え込んでいるようだった。「今日はどこへ行くんだい?」ラーンの問いかけに、イシェは小さくため息をついた。「テルヘルがまた新しい遺跡の情報を手に入れたらしい。今回はヴォルダンとの国境付近だって」
「また危険な場所か…」ラーンは少し渋った。しかし、彼の心には、いつもより強い興奮が渦巻いていた。テルヘルの提示した報酬額は破格だったのだ。「大穴」を掘り当てる夢に近づくためのチャンスかもしれない。
テルヘルはいつものように、黒曜石のような鋭い目つきで彼らを待ち受けていた。彼女の口から語られるのは、ヴォルダンとエンノル連合の国境にある忘れられた遺跡についてだった。かつては強力な魔導師が住んでいたという場所だ。そこで発見された古代の書物には、「異界への扉」についての記述があると噂されていた。
「扉…」イシェは眉間に皺を寄せた。「そんなものがあるわけがないだろう」ラーンは好奇心に満ちていた。「どんな扉だって、開けてみないとわからないだろ?」テルヘルは冷たく微笑んだ。「扉を開けるには、特別な鍵が必要だと言われている。それが今、この遺跡に眠っているはずだと…」
三人は廃墟となった街へと足を踏み入れた。朽ち果てた石造りの建物や、歪んだ金属製の門が、かつて栄華を極めた文明の残骸のように立ち並んでいた。空には不気味なまでに静寂が広がり、時折、風が吹き抜ける音だけが響いていた。
遺跡の中心部では、巨大な石碑がそびえ立っていた。その表面には複雑な模様が刻まれており、まるで異世界への扉を模倣したかのようだった。ラーンは石碑に手を当てると、奇妙な熱を感じた。彼の頭の中に、かすかな声が響き渡り始めた。「開けよ…」
イシェは不安げにラーンを見つめた。「何があったんだ?」ラーンの顔色は蒼白になっていた。「何か…聞こえたような気がするんだ」その時、石碑の模様が光り輝き始めた。地面からは黒い霧が立ち上り、三人は不気味な力に包まれてしまった。
「これは…」テルヘルの声は震えていた。異世界への扉が開かれようとしていたのだ。