「よし、今日はあの崩れかけた塔だな。噂には、地下に何かあるって話だ」ラーンの目の奥が輝いていた。イシェはため息をつきながら地図を広げた。「またそんな噂話で決めたの? ラーン、あの塔は危険だって聞いたわよ。地元の人たちからは『産声の塔』って呼ばれてるらしいし…」
「産声?」ラーンは眉をひそめた。「どういう意味だ?」
イシェは地図を指差した。「昔、塔から赤ん坊の泣き声が聞こえたってさ。それから誰も近づかなくなったんだって」
「そんな馬鹿な話があるわけないだろう!」ラーンは鼻で笑った。「宝探しの邪魔をするなよ、イシェ。ほら、テルヘルも待ってるぞ」
テルヘルは影のように彼らの後ろに立っていた。鋭い目で塔を見つめている。
「産声の塔か…興味深い」彼女は低く呟いた。「あの塔には何かがあるはずだ。我々の目的達成にも繋がるかもしれない」
ラーンの興奮を冷ます気配はなかった。イシェは諦めたように肩を落とした。
「わかったわ。行くけど、何かあったら責任取るわよ、ラーン」
崩れかけた石段を登っていくと、空気が重くなった。不気味な静寂が辺りを包んでいた。「産声」の話は本当なのか、イシェは不安でいっぱいだった。ラーンは意に介さず、塔の奥深くへと進んでいった。テルヘルは彼ら二人を見据えながら、ゆっくりと足を進めた。
塔の中心部では、床に広がる巨大な石版がひっそりと光っていた。ラーンの目が輝き、手を伸ばそうとしたその時、背後から冷たい声が響いた。
「待て」
テルヘルが剣を抜いてラーンを制止した。「ここには何か邪悪なものを感じる。用心しなさい」
イシェは震える手でラーンの腕をつかんだ。「ラーン、やめて。何か変だ…」
ラーンの顔色は青白になった。石版から奇妙な音が響き渡り、壁が揺れ始めた。その瞬間、塔全体が轟音と共に崩れ始め、三人はバランスを崩して地面に転げ落ちた。