ビレーの朝焼けが、荒れた岩肌に赤く染まる頃、ラーンはいつも通りの寝ぐせで目を覚ました。イシェはすでに準備を終えており、不機嫌そうに彼を見下ろしていた。
「また寝坊か？テルヘルさんが待ってるぞ」
「分かってるって！今日はいい遺跡らしいんだってな、大穴に近づくかもって」
ラーンの言葉にイシェはため息をついた。そんな甘い夢を見るのはいつまでだ。
テルヘルはいつものように冷たい表情で二人を待っていた。
「準備はいいか？今日はヴォルダンとの国境に近い遺跡だ。危険な場所だが、その分価値のある遺物があるはずだ」
ラーンの顔色が少し曇った。ヴォルダンといえば、彼の故郷を焼き尽くし、家族を奪った場所だった。イシェもまた、ヴォルダンの圧政下で幼い頃を過ごしていた。
遺跡は深い森の中にあり、薄暗い空気に不吉な静寂が支配していた。入り口には奇妙な石碑が立っており、そこには古代の文字が刻まれていた。テルヘルは石碑に触れながら、何かを呟いていた。
「生贄…？」イシェはつぶやいた。ラーンは彼女の言葉に耳を傾けなかった。彼は石碑の近くで奇妙な感覚を感じていた。まるで誰かが彼をじっと見つめているような気がしたのだ。
遺跡内部は迷路のように複雑で、罠が仕掛けられている場所もあった。ラーンの力強さとイシェの知恵、そしてテルヘルの冷静な判断力でなんとか進んだ。しかし、彼らの前に立ちはだかる壁は予想以上に厚かった。
「ここは…何か違う…」イシェの声が震えていた。
壁には血のような赤い模様が描かれており、その中心には巨大な祭壇があった。祭壇の上には、生きた人間の形をした石像が置かれていた。
「これは…生贄のための場所だ」テルヘルは冷たい声で言った。「この遺跡はヴォルダンに捧げられたものだったのか…」
ラーンは怒りを感じた。ヴォルダンがまだ存在し続けることへの憎悪と、この遺跡がかつてどれほど多くの人々を犠牲にしたのかという悲しみ。彼は剣を握りしめ、壁に向かって叫んだ。
「絶対に許さない！」
その時、遺跡の奥深くから不気味な音が響き渡った。それはまるで、何かの目覚めを告げるような音だった。