ラーンが寝息を立てていると、イシェがそっと揺さぶった。「起きろ、まだ夜明け前だ」。薄暗い空を見上げながら、ラーンはあくびをした。「今日はテルヘルが来る日だな。準備はいいか?」イシェは小さな革袋から食料と水筒を取り出した。「いつも通り、最低限のものだけだぞ。無駄な荷物は邪魔になる」。
ビレーの朝は寒かった。街の通りを歩く人々の息が白い煙のように立ち上る。ラーンとイシェはテルヘルの待ち合わせ場所である、賑やかな市場に向かった。テルヘルはいつも通り、黒のマントを身にまとっていた。彼女の鋭い眼光は、周囲の人々を一瞬でスキャンするようだった。「準備はいいか?」テルヘルは冷めた声で尋ねた。「今日は大きな遺跡に潜る。危険だが、報酬も大きい」。イシェは少し緊張した表情を見せたが、ラーンはいつものように豪快に笑った。「任せておけ!俺たちはどんな危険にも立ち向かうぞ!」
遺跡へ向かう道は険しく、山道を何時間も歩く必要があった。イシェは疲れた様子だったが、ラーンの陽気な語りかけで何とか心を落ち着かせていた。「今日はどんな遺物が見つかるかな?もしかしたら、伝説の宝箱だってあるかもよ」ラーンは興奮気味に言ったが、イシェは冷静に「そんなものはないだろう」と返した。
遺跡に到着すると、テルヘルは遺跡の地図を広げ、詳細な作戦を説明し始めた。ラーンの無計画さは、テルヘルの緻密な計画と対照的だった。イシェは二つの性格のバランスを取りながら、冷静に状況を判断していた。「注意深く行動しよう。遺跡には常に危険が潜んでいる」テルヘルは警告を発した。
遺跡内部は暗く湿っていた。彼らは互いに助け合いながら、崩れかけた通路を進んでいった。ラーンの力強さとイシェの機転が、彼らの生存を支えていた。途中で何体もの奇妙な生物と遭遇したが、テルヘルの戦闘能力とラーンの勇気で難を逃れた。
ついに、彼らは遺跡の中心部にある大部屋にたどり着いた。そこには、巨大な石棺が安置されていた。「これは...!」イシェは息をのんだ。「伝説の王の墓だ」。
しかし、その瞬間、床から黒い影が現れ、彼らを襲ってきた。それは、遺跡の守護者だった。激しい戦いが始まった。ラーンは剣を振り回し、イシェは機敏に動き回りながら敵をかわし、テルヘルは冷静に魔法を繰り出した。彼らは互いに助け合い、協力して戦うことで、ついに守護者を倒した。
石棺を開けると、そこには驚くべきものが眠っていた。それは、王の遺体ではなく、一枚の古びた地図だった。「これは...?」イシェは地図を広げ、目を丸くした。「ヴォルダンへの道図だ」。テルヘルは地図を手に取り、にやりと笑った。
「これで、私の復讐は一歩前進する」。 ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らは、この遺跡探索が単なる日暮らしの冒険ではなく、大きな歴史の歯車の一部であることを実感した。そして、彼らの生活は、これから大きく変わっていくことを予感した。