ビレーの朝はいつも早かった。薄暗い空が徐々に青みを取り始める頃には、ラーンとイシェはすでに街はずれの酒場で朝食をとっていた。ラーンの豪快な笑い声と、イシェの静かなため息が、まだ眠りについている町に生気をもたらすかのようだった。
「今日はどこへ行くんだ?」イシェは目覚まし代わりに熱いコーヒーを一口飲み干した。
「あの遺跡だな!テルヘルが言ってたやつだ」ラーンは興奮気味にテーブルを叩いた。「地図によると、奥には大きな部屋があるらしいぞ!もしかしたら、そこで大穴が見つかるかもな!」
イシェは眉をひそめた。「また大穴か…。そんな夢を見てる場合じゃないわよ。あの遺跡は危険だって聞いたし、テルヘルが言うように、ヴォルダンに利用される可能性もある」
「大丈夫だ!俺たちにはラーンがいるだろ?」ラーンの自信に満ちた笑みは、イシェの心を少しだけ和らげた。
彼らはテルヘルの待つ場所に急いだ。彼女はいつも通り、黒曜石のように冷たい目で二人を見つめていた。
「準備はいいか?」テルヘルは声を荒げずに言った。「今日は特に慎重に進めよ。ヴォルダンが動き出す情報は入手できた。遺跡に何か隠されているものがあるらしい」
「何だ?またヴォルダンか…」ラーンは顔をしかめた。イシェも、テルヘルの目的には疑問を抱いていた。
遺跡の入り口は薄暗く、湿った空気が漂っていた。ラーンの力強い足取りとイシェの慎重な歩みが響き渡る。奥深くへ進むにつれ、生気のない冷たい空気が彼らを包み込み、まるで遺跡自体が彼らを拒絶しているようだった。
突然、イシェが立ち止まった。「ラーン、何か聞こえないか?」
遠くから、かすかな金属音と足音が聞こえてきた。
「ヴォルダンの人間だ!」テルヘルは顔色を変えた。「逃げろ!」
彼らは慌てて奥へ逃げ込んだが、追っ手は容赦なく迫ってきた。ラーンの剣が光り、イシェの機敏な動きが敵をかわす。しかし、数が多すぎる。
「もう駄目だ…」イシェは絶望したように呟いた。その時、ラーンが何かを叫んだ。「イシェ、あの部屋へ!」
ラーンの指示に従い、イシェは奥の部屋へと走った。そこには、巨大な石棺があった。棺の上には、鮮やかな赤い宝石が輝いていた。その生気に満ちた光に、イシェは一瞬息を呑んだ。
その時、激しい衝撃と共に遺跡は崩れ始めた。ラーンとテルヘルは追っ手と戦いながら、崩壊する遺跡から脱出しようとしていた。イシェは石棺のそばで、赤い宝石を見つめていた。宝石が放つ光は、まるで希望の光のようだった。
「イシェ!行くぞ!」ラーンの声が響き渡る。イシェは最後の力を振り絞り、宝石を手に取って遺跡から逃げ出した。