ビレーの朝は薄暗い空の下、いつもより冷え込んでいた。ラーンが目を覚ますと、イシェがすでに準備を終えていた。「今日はあの遺跡だな? 噂では奥深くにある部屋に、何か特別な遺物があるらしいぞ」
ラーンの目が輝き始めた。「そうか! 大穴の予感しかしないな!」
イシェはため息をついた。「また大穴… 何も確証がないのに」
だが、ラーンの熱意には抗えない。テルヘルが約束した報酬も魅力的だった。彼女は冷静に地図を広げ、「今回は慎重に進もう。危険区域を避けて進むルートを立てた」と指示する。
遺跡の入り口は崩れかけていて、薄暗い通路が続く。足元には石ころや瓦礫が散らばり、一歩一歩が慎重になる。ラーンの無鉄砲な行動にイシェは何度も制止したが、彼は「大丈夫だ、俺が先導する!」とばかりに進んでいった。
奥深く進むにつれ、空気が重くなり始める。壁には不気味な模様が刻まれ、かすかな光が揺らめく。ラーンの表情が少し曇った。「何か変だな… 」
その時、床が崩れ、ラーンは深い穴の中に落ちていった。イシェとテルヘルが駆け寄ると、ラーンの姿が見えなくなっていた。「ラーン!」
イシェは叫びながら穴をのぞき込んだ。暗闇の中でかすかに息遣いが聞こえた。「大丈夫か!?」
「…イシェ…」ラーンの声がかすれた。「助けてくれ…」
イシェは必死に彼を助けようと手を伸ばしたが、穴の壁は滑りやすく、なかなか掴まらない。テルヘルがロープを取り出すと、「俺が下る」と決意した。だが、その瞬間、穴から不気味な光が放たれ、周囲の空気が激しく震えた。
「何だ!?」イシェが目を覆った時、激しい衝撃が彼女を襲い、意識が遠のいていく。
…
目が覚めた時、イシェはラーンの顔を見ていた。「よかった… 無事だったのか?」
ラーンは顔をしかめ、「イシェ…」と呟いた後、目を閉じ始めた。「イシェ…ごめん…俺…」
イシェは彼の言葉を遮った。「大丈夫だ、生きていればそれでいい」
だが、ラーンの顔色が悪かった。彼は苦しそうに息を吸い込み、血を吐き出した。
「イシェ…俺…」彼の声はかすれていた。「お前を…守れなかった…」
イシェが恐怖に震えながらラーンの手を握ると、彼の体温は冷たくなっていた。
「ラーン!」
イシェの絶叫は、遺跡の奥深くまで響き渡った。