ビレーの朝はいつも早かった。ラーンが目を覚ますと、イシェがすでに準備を終えていた。「今日はあの遺跡だな。テルヘルが言ってたように、甘露の泉があるらしいぞ」イシェの声はいつものように冷静だった。ラーンは眠気を振り払って立ち上がり、剣を手に取った。「よし、行こうぜ!」
遺跡への道は険しく、太陽が容赦なく照りつける中を3人は進んでいった。テルヘルは常に先頭を歩き、時折地図を広げて進路を確認する。彼女はいつも冷静で計算的な態度で、ラーンの無鉄砲さにイシェと共に呆れているように見えた。
遺跡の入り口には、崩れかけた石碑が立っていた。「甘露の泉…」イシェは碑文を指さした。「伝説では、この泉の水は不死をもたらすという話だ」ラーンの目は輝き始めた。「もし本当なら、ビレーのみんなに分け与えるんだ!」
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。石畳の床には苔が生えており、足元を滑らせないように慎重に進まなければならなかった。テルヘルが先導し、イシェが後ろからラーンの動きを監視する。彼らは互いに助け合って進み、遺跡の奥へと足を踏み入れていった。
長い通路の先に広がるのは、巨大な石造りの部屋だった。天井から光が差し込み、部屋の中央には泉が輝いていた。その水は透き通っていて、まるで宝石のように光り輝いていた。「甘露の泉だ…」イシェの声が震えた。「本当に存在したのか…」ラーンは目を丸くして泉を見つめていた。
テルヘルは泉に近づき、水面に映る自分の姿をじっと見つめた。「これでヴォルダンへの復讐も近い…」彼女は呟いた。彼女の瞳には、復讐への強い意志だけでなく、どこか悲しげな影が宿っていた。
ラーンとイシェは泉の近くで歓声を上げていた。だが、その喜びは長くは続かなかった。突然、地響きが聞こえ、天井から石が崩れ落ち始めた。「これは…!」イシェの声が途切れた。遺跡全体が揺れ動き、彼らを飲み込もうとするかのように崩れ落ちていった。
ラーンはイシェの手を強く握り締め、「逃げろ!」と叫んだ。3人は必死に泉から離れようとしたが、崩れる天井に挟まれてしまった。ラーンの背中に激しい痛みが走った。