「おい、イシェ、今日はどこ行くんだ?」ラーンが太い腕でイシェの肩を叩いた。イシェは小さく溜息をつきながら、地図を広げた。「あの遺跡群だな。テルヘルが新しい情報を入手したらしい。」
ビレーの賑やかな市場を抜け、荒涼とした平野に差し掛かった時、ラーンは顔を曇らせた。「またかよ。あの辺は危険だって聞いたぞ。罠ばっかりだし。」イシェは静かに頷いた。「でも、テルヘルが言うには、今回は大物らしい。古代ヴォルダンの王墓の入り口かもしれないって」
「王墓か…」ラーンの目は輝き始めた。「もし本当なら、とんでもない財宝が入ってるかもな!」イシェはラーンの熱意に苦笑した。「落ち着いて。まずは調査だ。危険を冒す前に、しっかりと準備をしよう。」
遺跡群への道は険しく、日差しが容赦なく照りつける。日が暮れる頃、ようやく目的地に到着した。巨大な石造りの門が、朽ち果てた植物に覆われながらそびえ立っていた。「ここだな…確かに不気味だ」ラーンは剣を握りしめ、緊張した表情を見せた。イシェは慎重に周囲を調べながら、「何か変だな…」と呟いた。
その時、地面が激しく震え始めた。石門の上から、何者かがゆっくりと姿を現した。巨大な翼を持つ黒い獣。その目は赤く燃えており、鋭い牙が剥き出しになっていた。「なんだあの化け物…!」ラーンは驚愕する。イシェは冷静に状況を判断し、「これは罠だ!逃げろ!」と叫んだ。
しかし、遅かった。獣は羽ばたき、空中に舞い上がった。ラーンの背後から襲いかかるように、鋭い爪が伸びてきた。ラーンは剣で受け止めようとしたが、獣の力は計り知れず、吹き飛ばされてしまった。「ラーーン!」イシェは絶叫した。
その時、テルヘルが獣の前に立ち塞がった。彼女は手にある杖を高く掲げ、何かを唱えた。杖から青い光が放たれ、獣に直撃した。獣は悲鳴を上げながら空中に消え去った。テルヘルは息を切らしながらも、ラーンの元へと駆け寄った。「大丈夫か?」
ラーンは立ち上がろうとしたが、足がふらついた。「や…よかった…」イシェは安堵の表情を見せながらも、テルヘルの顔色が悪いことに気づいた。「テルヘル、あなたはどうしたの?顔色が悪いわ」
テルヘルは苦笑いした。「少し疲れただけだ。それに…」彼女は視線を遠くにむけ、「この遺跡には、私が探しているものがあるようだ。」その目は、甘辛な影に包まれていた。