「おい、イシェ、準備はいいか?」ラーンが豪快に笑いかけた。イシェは小さくため息をつきながら、道具の整理を続けた。いつも通り、ラーンの計画は曖昧だった。テルヘルも少し眉間にしわを寄せながら、彼らをじっと見ている。
「今日はあの古代都市跡地へ行くんだろ?あの遺跡は危険だって言ってたぞ」イシェは不安そうに言った。
「大丈夫だ!俺たちならなんとかなるさ」ラーンは自信満々に剣を構えた。「それに、テルヘルさんが高い報酬を出してくれるって言うんだから、行かない手はないだろ?」
テルヘルは深く頷いた。「その通り。あの遺跡には、ヴォルダンに奪われたものを取り戻すための手がかりがある可能性がある。危険を冒してでも、行く価値はある」
イシェは彼女の言葉に背筋がぞっとした。テルヘルの目的は彼らとは違う。復讐心燃える彼女は、手段を選ばないだろう。
遺跡の入り口には、朽ち果てた石碑がそびえ立っていた。かつて栄華を極めた都市の名が刻まれていたが、今は風に吹かれて文字が剥げ落ちかけている。ラーンは少しだけ表情を曇らせた後、力強く石碑に触れ、「さあ、行くぞ!」と叫んだ。
イシェはラーンの後ろをついていった。いつもならラーンの無鉄砲さに呆れるのだが、今日はなぜか彼の背中に安心感を感じた。テルヘルが彼らを操り、危険なゲームに巻き込んでいるかもしれない。それでも、彼らには彼らなりの信念がある。
遺跡の奥深くへ進むにつれて、空気が重くなっていった。壁には不気味な絵画が描かれていて、イシェは背筋が凍りつくのを感じた。
「何かいるぞ…」ラーンの声に、イシェとテルヘルも緊張した。
影から巨大な怪物が現れた。鋭い牙と爪を持つ恐ろしい姿だった。ラーンは剣を抜き、勇敢に立ち向かった。イシェは彼をサポートし、テルヘルは冷静に状況を見極めた。
激しい戦いの末、ついに怪物は倒れた。
「やった…」ラーンの顔には汗が滲んでいたが、満面の笑みを浮かべていた。「やっぱり俺たち最強だぜ!」
イシェは彼の笑顔を見て、少しだけ安心した。
「よし、これで少しは報酬が増えるな」ラーンは宝箱を開けようと近づき、手を差し伸べた瞬間、箱から甘く香る毒気が立ち込めた。
イシェは恐怖で言葉を失った。テルヘルは冷静に、ラーンの動きを止めた。「待て!あれは罠だ!」
ラーンの顔色が青ざめた。彼が目を閉じると、イシェの視界には彼の幼い頃の記憶が浮かんだ。甘やかされて育ったラーンは、いつもイシェを頼っていた。そして、イシェは彼を守ってきた。
「イシェ…」ラーンは目を覚ましたように言った。「俺を助けてくれ…」
イシェは深く頷いた。彼を助けたい。でも、テルヘルが言うように、これは罠だ。そして、この遺跡には、もっと恐ろしい秘密が隠されているのかもしれない…。