ビレーの酒場で、ラーンが豪快に笑いながら酒を煽る。イシェは眉間にしわを寄せながら彼の横に座り、小皿に盛られた干し肉をつまんでいた。
「また遺跡で見つけたのか?」
イシェの言葉に、ラーンは満面の笑みで頷く。
「ああ、今回は古代の壺らしいぞ!テラコッタ製で、装飾が凝ってるんだ。テルヘルも喜んでくれるだろう」
「まさかまた、あのヴォルダン絡みのものか?」
イシェはため息をついた。ラーンとテルヘルは最近、ヴォルダンとの関連が深い遺跡ばかりに目を向けている。それはテルヘルの復讐心ゆえだが、イシェにとっては危険な予感しかしない。
「まぁ、報酬もいいし、気にしない気にしない」
ラーンの軽い言葉にイシェは苦笑する。彼の楽観的な性格は、時にイシェを安心させることもあるが、時にはイシェ自身の不安を増幅させることもあった。
その時、酒場の入り口から一人の男が入ってきた。黒装束をまとい、鋭い眼光を持つその男は、テルヘルにそっくりだった。しかし、彼の顔にはどこか冷酷な影が落とされていた。
「テルヘル様」
男は低い声で言った。ラーンとイシェは互いに顔を合わせた。
「何事だ?」
ラーンの問いかけに、男はゆっくりと口を開いた。
「ヴォルダンから連絡がありました。王統に関する重要な遺物が見つかったそうです。テルヘル様には、その遺物を回収するよう命じられました」
イシェの心は氷のように冷たくなった。ヴォルダンと王統。それは、かつてヴォルダンが滅ぼした王家との繋がりを意味する。そして、その王家の血筋は、今なお生き続けているという噂も流れていた。
ラーンは興奮気味に立ち上がった。
「王統!それなら大穴かもしれないぞ!」
イシェはラーンの肩を抑えようとしたが、彼はもう動かない。彼の目は、男の言葉に燃えるように輝いていた。