「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。噂では地下に何かが残されているらしい」
ラーンがそう言うと、イシェは眉間に皺を寄せた。
「またそんな曖昧な情報で？ 以前もそうだっただろう？ 何時間も無駄な探索に時間を費やした挙句、ただの石ころしか見つからなかったじゃないか」
「ほら、イシェよ。そんなにネガティブになるなよ。今回はきっと違うはずだ！ きっと大穴が見つかる！」
ラーンの軽快な言葉にイシェはため息をついた。彼の楽観的な態度には、いつもイライラさせられるが、どこか憎めない部分もある。それに、彼を信じてついてきた日々の中で、小さな発見や冒険の興奮も味わってきた。
「わかった、わかった。今回は私が計画を立ててみる」
イシェは地図を広げ、塔の位置を確認し始めた。
その時、後ろから低い声が聞こえた。
「二人とも、準備はいいか？」
テルヘルが冷めた視線で二人を見下ろしていた。彼女の鋭い眼光には、いつもどこか影が差しているように見えた。
「ああ、準備は完了だ」
ラーンは笑顔で答えたが、イシェはテルヘルの顔色から何かを感じ取っていた。彼女の目的は遺跡の探索だけではないようだった。
塔への道は険しく、崩れかけた石畳を慎重に進む必要があった。ラーンの力強い腕とイシェの機敏な動きで、なんとか進めていくことができた。
塔の中は薄暗く、湿った風が吹き抜けていた。壁には謎の文様が刻まれており、不気味な雰囲気を漂わせていた。
「ここからは慎重に」
テルヘルが低い声で言った。彼女の目には、今まで見たことのない光が宿っていた。それは、ただの遺跡探索以上の何かを求めているような、燃えるような光だった。
「何だ、このマークは？」
ラーンが壁の文様を指さした。イシェもそのマークに目を凝らした。
「見たことがあるような…どこかで…」
イシェは言葉を失い、頭の中で何かを必死に思い出そうとした。その時、彼の耳にかすかな声が聞こえた。
「猶子…」
それは、まるで誰かのささやきだった。イシェは背筋がぞっとするような感覚に襲われた。