ラーンが石畳の上で足を踏み外した時、イシェは一瞬息を呑んだ。深い溝に落ちそうになったラーンの腕を掴み、必死に引っ張り上げた。ビレーの遺跡探索ではよくある光景だが、今回は少し違った。溝の底から冷たい風が吹き上がり、イシェの背筋を凍らせた。「ここは違う」イシェは呟き、ラーンの顔色を窺った。ラーンはいつものように明るく笑っていたが、その瞳にはかすかな影が宿っているように見えた。「大丈夫だ、イシェ!ただの穴に落ちただけだ」ラーンはそう言って、剣を抜き、溝の底を覗き込んだ。「よし、行くぞ!」と彼は言ったが、イシェはどこか不安を感じていた。
テルヘルは地図を広げ、複雑な地形図を指さした。「ここが遺跡の入り口だ。しかし、ヴォルダン軍が既に調査を開始している可能性が高い。我々は裏口から侵入しなければならない。」テルヘルの声は冷酷で、まるで氷の刃のように鋭かった。ラーンは何も言わずに頷き、イシェも深く頷いた。彼らはテルヘルの指示に従い、狭間の道を進んでいった。道は険しく、急斜面を縫うように進む必要があった。
日が暮れ始めると、彼らは小さな洞窟を見つけた。洞窟の入り口には、奇妙なシンボルが刻まれていた。「これは…?」イシェは不安げに言った。ラーンはシンボルの意味を理解するよう努めたが、見覚えのないものだった。テルヘルは地図を広げ、シンボルと照らし合わせた。「これは警告だ。この遺跡には危険な罠が仕掛けられている」彼女は言った。「だが、同時に、このシンボルは、ヴォルダン軍がまだこの遺跡に侵入していないことを示す可能性もある。」
洞窟の中は薄暗く、不気味な静けさだった。彼らは慎重に足を踏み入れ、周囲を警戒した。壁には奇妙な絵画が描かれており、イシェは背筋が寒くなるような予感を覚えた。ラーンの足音が突然止まった。「何かいる…」彼はささやき、剣を構えた。イシェも緊張して息を潜めた。
その時、洞窟の奥から不気味な音声が響き渡った。それはまるで、何者かの苦しげな叫び声のようだった。ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。テルヘルは表情を変えずに言った。「進もう。あの音の源を探るのだ。」彼らはゆっくりと洞窟の奥へと進んでいった。
狭間の道を進むように、彼らは緊張感の中で遺跡の奥深くへと進んでいく。そこには、彼らを待ち受ける運命が既に用意されているようだった。