「よし、今日はあの崩れた塔だな」
ラーンの豪快な声にイシェは小さくため息をついた。
「また危険な場所かい? あの塔は崩落寸前だって聞いたぞ」
「大丈夫だって! 昔、あの塔には王家の墓があったって話だろ? きっと宝物が眠ってるはずだ!」
ラーンの目が輝き、イシェは彼の熱気に巻き込まれるように頷く。
その様子を冷静に見つめるテルヘルは、薄暗い酒場の隅で静かに微笑んだ。 ラーンとイシェが遺跡に飛び込む前に、彼女は彼らに地図を一枚渡す。
「この塔には秘密の通路がある。そこへ通じれば、誰も見つけられない場所へたどり着ける」
ラーンの目を輝かせ、イシェは眉間にしわを寄せた。
「なぜ教えてくれるんだ?」
テルヘルの微笑みが深まった。「単なる情報提供だ。お二人には報酬を支払うし、発見したものは半分くれると言ったでしょう?」
イシェはテルヘルの言葉を疑いながらも、ラーンの好奇心は抑えきれなかった。
塔の崩れた石の間を慎重に進むラーンとイシェ。テルヘルは後からゆっくりと続く。秘密の通路を見つけると、ラーンの興奮が最高潮に達した。
「やった! これで大穴だ!」
奥へ進むと、そこには広大な地下空間が広がっていた。壁一面にきらびやかな宝石が埋め込まれており、中央には黄金の棺が置かれていた。 ラーンは目を輝かせ、イシェも思わず息を呑んだ。
「これは…!」
だが、テルヘルは冷静にその場を見渡した。 彼女は宝石や黄金の棺には興味を示さず、壁の奥にある小さな石碑に目を向けた。
「ここに何か書かれている」
彼女は石碑に触れ、指先で文字をなぞった。
「これは…所有権の証?」
イシェが読み上げた。
「所有権…? どういうことだ?」
ラーンの言葉にテルヘルは小さく頷いた。
「この遺跡の真の宝は、この石碑にあるのだ。この石碑には、この遺跡の全てを独り占めできる権利が記されている」
ラーンとイシェは言葉を失った。 宝物を前にした興奮は、一瞬で消え去り、代わりに恐怖と不安が押し寄せた。
テルヘルはゆっくりと微笑みながら言った。
「さあ、お二人とも。この遺跡の真の価値を理解しましたか?」