「おい、イシェ、ここだ！」ラーンの声がビレーの賑やかな市場を突き破った。イシェは彼に付き合わされているような顔をして、少し離れた場所で店先で売られている野菜を物色していた。
「また遺跡か…」と呟きながら、イシェはラーンと一緒にテルヘルが指定した場所に向かった。今回はヴォルダンとの国境に近い、見慣れない地形を持つ遺跡だった。テルヘルはいつもより顔色が悪く、口数が少なかった。
「何かあったのか？」ラーンの問いかけに、テルヘルは小さく頷いた。「ヴォルダンからの情報だ。ここには危険な遺物があるらしい。」彼女の目は冷酷に光っていた。「あの国が何を企んでいるのか…絶対に手に入れられないようにする。」
遺跡の入り口は狭く、薄暗い通路になっていた。ラーンは先陣を切って進んでいくが、イシェはテルヘルと並んで慎重に後ろから続いた。「何か変だぞ…」ラーンの声が遠くから聞こえた。イシェは振り返ると、テルヘルの顔色がさらに悪くなっていることに気づいた。
「急いで！」テルヘルが叫んだ。その時、通路の奥から轟音と共に岩石が崩れ落ち、ラーンを襲った。イシェは咄嗟にラーンを引っ張り出したが、彼の足は石の下敷きになってしまった。
「ラーン！」イシェが駆け寄ると、彼は苦しみながらも顔を上げた。「大丈夫だ…行け…逃げろ…」
イシェは涙を抑えながら、テルヘルと共に遺跡から逃げることを決意した。だが、その時、テルヘルが立ち止まった。
「待て、イシェ。あの石の下には何かがある。」彼女は剣を抜き、崩れ落ちた岩石に向かって歩み始めた。「ヴォルダンが欲しがる遺物…私の狙いはここだ。」
イシェは言葉を失った。ラーンの命とテルヘルの「狙い」。どちらを優先すべきなのか。彼女の瞳に迷いが渦巻いた。