ラーンの大げさな声と、イシェの淡々とした説明が、ビレーの賑やかな市場を縫うように響いた。
「ほら、テルヘルさん！見てくださいよ！これは古代ヴォルダン人の王冠じゃないか？価値あるぞ！」
ラーンは興奮気味に、埃まみれの金色の飾りを掲げる。イシェは眉間に皺を寄せながら、誇張の効いたラーンの言葉を冷静に訂正した。
「王冠ではないでしょう。装飾品だとしても、その時代のものであれば偽物である可能性が高い。素材も粗悪だ」
テルヘルは静かに2人のやり取りを聞いていた。彼女はラーンの熱意とイシェの冷静さに、どこか皮肉を感じていた。この二人は、まるで狂言師のように、互いの役割を演じているようだった。
「まあ、それでも価値はあるだろう」
テルヘルはそう言って、ラーンの持ち物を慎重に受け取った。彼女の目は、その粗雑な装飾品ではなく、ラーンの背後に広がる遺跡の壁に向けられていた。そこには、まだ見ぬ秘密が眠っているはずだ。
「次の遺跡へ向かう前に、少し休憩しませんか？」
イシェが提案した。ラーンは、テルヘルの言葉に気を取られ、少しの間静まり返っていた。
「そうだね、休憩だ！」
ラーンの答えは、いつも通り大げさだった。しかし、テルヘルは彼の声の中に、ほんの少しだけ、不安を感じた。それはまるで、狂言の幕が下りようとしているかのような予感だった。