「おいラーン、今日はいい感じの気配だぞ。この遺跡、何かあるって気がするんだ」イシェが言う。ラーンの後ろをついてくる彼女の足取りは軽快だった。ビレーから少し離れた丘の上に建つ遺跡は、見慣れた風景になった。
「ああ、そうかな? イシェにはそんな感覚があるのかい? 俺には何も感じないぞ」ラーンはにやりと笑った。剣を軽く振る動きは、まるで犬が尻尾を振っているようだった。
「いつもそうじゃないか。計画性ゼロで、ただ本能に従うだけだ」イシェはため息をついた。「でも、今回は違う。あの日、テルヘルが言った言葉を覚えていないのか?」
ラーンは一瞬黙り込んだ。テルヘルの鋭い視線と、冷酷な口調が脳裏をよぎった。「ヴォルダンとの戦いに必要なもの。その鍵がここにあると言ったよな…」
「そうさ。だから今回は慎重にやろう」イシェの目は遺跡の奥深くに注がれていた。「あの犬みたいに、嗅ぎ分けるように探すんだ」
ラーンは頷いた。いつもとは違う緊張感が空気を包んでいた。テルヘルからの依頼、ヴォルダンへの復讐、そして自分たちの未来。全てが複雑に絡み合っていた。
遺跡の入り口から差し込む光は薄暗く、埃っぽい空気を漂わせていた。犬のように鋭い嗅覚を持つイシェは、ラーンの背後で慎重に一歩ずつ進んでいった。ラーンは剣を構え、周囲を見回した。彼らの前に広がるのは、未知なる世界だった。