ラーンの大笑い声がビレーの朝の霧を突き散らす。イシェが顔をしかめながら、粗雑にまとめられた地図を広げた。
「また行き過ぎだ。あの遺跡は危険だって言っただろう。」
「大丈夫だ、大丈夫！ほら、テルヘルさんもいるじゃないか。」
ラーンはそう言って、テルヘルの鋭い視線に気づくこともなく、胸を張った。
テルヘルは彼らをじっと見つめていた。この遺跡探索の依頼を受ける前は、彼らの無謀さに辟易していたが、今は違う感情を抱いていることに気づいていた。ラーンの無邪気な笑顔には、どこか哀れささえ感じられる。
遺跡は深い森に覆われ、入り口は崩れた石造りの階段だった。薄暗い通路を進んでいくと、壁一面に奇妙な絵画が広がっているのが見えた。イシェは眉をひそめた。
「これは...呪符のようだ。」
ラーンの足が止まった。「呪符？そんなもの怖くないぞ！」
彼は勇ましい口ぶりで言ったものの、イシェの不安を察知し、少しだけ緊張した表情を見せた。テルヘルは静かに剣を抜いた。彼女の鋭い感覚は、この遺跡に潜む危険を感知していた。
奥深くまで進むにつれ、空気が重くなり、不気味な静寂が支配するようになった。壁には血痕のような赤い模様が描かれており、床には腐敗した骨が散らばっていた。イシェはラーンの手をぎゅっと握りしめた。
突然、地面が激しく揺れた。天井から石が崩れ落ちてくる中、ラーンは咄嗟にイシェを抱き寄せた。
「イシェ！大丈夫か？」
イシェは恐怖で言葉を失った。その時、テルヘルが何かを叫んだ。
「罠だ！逃げろ！」
しかし、遅かった。床が開き、ラーンとイシェは深い闇の中に落ちていった。
テルヘルは必死に手を伸ばしたが、届かなかった。彼女は絶望的な気持ちに襲われたが、すぐに立ち直った。犠牲になる者もいるかもしれない。だが、自分の目的のためには、この苦しい道を行くしかない。そう自分に言い聞かせながら、彼女は遺跡の奥へと進んでいった。