「よし、ここだ!」ラーンが興奮気味に叫んだ。イシェは眉間にしわを寄せながら、地図を広げた。「ここは遺跡の西側、入り口からかなり離れているはずだ。本当にここに何かあるのか?」ラーンの計画性のない行動にはいつも呆れていたが、今回は特に不安を感じた。
「大丈夫だって!ほら、テルヘルも言ってたじゃないか?『この遺跡は特殊だ』って」ラーンは胸を張った。テルヘルは確かにそう言った。彼女はヴォルダンに関する情報収集のため、この遺跡に何か特別な物があると確信している様子だった。
しかし、イシェには何かが引っかかっていた。「特殊な遺跡」という言葉の意味が。テルヘルはいつも言葉を濁す癖があり、真意を測りかねた。
彼らは崩れかけた石造りの通路を進んだ。薄暗い空間に不気味な静寂が広がり、ラーンの陽気な声だけが響いていた。イシェは背筋に鳥肌が立つ感覚を抑えられなかった。
ついに奥に巨大な部屋に出た。そこには、天井から床まで伸びる巨大な水晶の柱が立っていた。その中心部には、脈打つように光が輝いている奇妙な球体が浮かんでいた。
「わっ…」ラーンは息を呑んだ。イシェも言葉を失った。
テルヘルは少し笑みを浮かべた。「これが、私が探していたものだ」彼女は水晶の柱に近づき、手を伸ばした。「ヴォルダンとの戦いに役立つもの…きっと。」
その時、球体が激しく光り始めた。部屋全体が一瞬白く包まれた後、イシェが目を覚ました時、そこは全く違う場所だった。見慣れない植物が生い茂る森の奥深くで、ラーンとテルヘルの姿が見当たらない。イシェは恐怖に駆られながらも、何かがおかしいことに気づいた。
この世界…何かが違っている。まるで、本来あるべき姿から歪んでいるように。
イシェは震える手で立ち上がり、辺りを注意深く見渡した。この奇妙な空間の奥底で、何かに導かれるように、彼女は歩き始めた。