ビレーの喧騒を背に、ラーンはイシェに肩を叩いた。「今日はいい日になりそうだぞ!」
イシェは眉間に皺を寄せながら地図を広げた。「遺跡の入り口は確認済みだが、今回は特に警戒が必要だ。テルヘルが言うようにヴォルダン兵の動きが活発になっているらしい。」
「気にすんな。俺たちにはラーンがいるだろ?」
ラーンの豪快な笑いにイシェは苦笑した。彼の楽観的な態度にいつも助けられる一方で、その無鉄砲さが心配でもあった。テルヘルとの契約もそうだった。高額の日当と引き換えに遺跡の発見物と独占権を譲渡するのは、彼女にとって都合の良い条件だったかもしれないが、イシェにはどこか不穏な予感がした。
遺跡内部は湿気が多く、薄暗い光が差し込むだけで暗闇に支配されていた。ラーンの持つランタンが唯一の光源となり、二人の影が壁に伸びていた。彼らは慎重に足を進め、崩れかけの石畳の上を歩いた。
「ここだ。」イシェが手を止めた。扉らしきものが壁に埋め込まれており、わずかに隙間が開いている。「何かあるかもしれない。」
ラーンは剣を抜いて扉を開けようとしたが、イシェは彼の腕を抑えた。「待て、ラーン。ここは罠かもしれない。」
「罠か…。よし、俺が先に進むぞ。」
テルヘルはそう言って扉に近づき、慎重に開けた。その奥には広大な空間が広がり、中央には光る球体が浮かんでいた。
「これは…!」イシェが息を呑んだ。球体は不思議な力を感じさせ、周囲の空気を歪ませているようだった。
「見つけたぞ!大穴だ!」ラーンは興奮した様子で球体に向かって手を伸ばしたが、テルヘルが彼を制止した。
「待った。これはただの遺物ではない。何か特別な力を持っている。調査が必要だ。」
テルヘルは球体に近づき、その表面を触れた瞬間、彼女の目から光が放たれ、体が輝き始めた。彼女はまるで球体の一部になったかのように、ゆっくりと浮かび上がった。
「これは…!」イシェが驚いて声を上げた。テルヘルの姿は徐々に変化し、光り輝く羽根が生え、衣服は豪華なローブに変わっていく。
「これは…特権だ…」テルヘルは目を閉じ、静かに言った。「ヴォルダンへの復讐を果たすための力。」
ラーンは呆然と立ち尽くしていた。イシェも言葉を失っていた。彼らには理解できなかった。テルヘルの目的、そしてその力を手に入れた今、彼女が何をしようとしているのか…。