「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂では奥に秘宝が眠っているらしい」ラーンが目を輝かせて地図を広げた。イシェは眉間にしわを寄せた。「またしても目先の利益ばかりか。あの塔は危険だって聞いたぞ。崩落した箇所も多いし、罠も仕掛けられている可能性がある」
「大丈夫だ、イシェ。今回はテルヘルが一緒だぞ」ラーンは自信満々に笑った。テルヘルは鋭い目で地図を睨みつけ、「情報によると、塔の最上階にはヴォルダン貴族が隠していた書庫があるらしい。そこには貴重な歴史資料だけでなく、ヴォルダンに関する重要な情報も含まれているかもしれない」と冷静に言った。
イシェはテルヘルの言葉に少し安心した。テルヘルは過去にヴォルダンから全てを奪われた女性で、復讐のために遺跡探索をしていた。彼女の目的は単なる財宝獲得ではない。その執念深さはラーンとは対照的だが、確かな力を持っていた。
「よし、準備はいいか?」ラーンの声でイシェの意識が戻った。彼らは崩れかけた塔に向かって足を踏み入れた。薄暗く埃っぽい内部は、重苦しい空気に包まれていた。ラーンは軽快に石畳を駆け上がり、イシェは慎重に足元を確認しながら進んだ。テルヘルは後方を警戒しながら、時折鋭い視線で周囲をくまなく見回していた。
塔の中ほどで、崩落した天井から差し込む光が、埃の粒子を舞い上がらせていた。ラーンの特技である洞察力は、崩れた壁の隙間をくぐり抜け、奥に隠された通路を発見した。「ここだ!何かあるぞ!」ラーンは興奮気味に叫んだ。
イシェは慎重に崩れた石をどかし、狭い通路へと進んだ。テルヘルは後を続け、周囲の状況を警戒しながら進んだ。通路の奥には、朽ちた木製の扉があった。扉には複雑な鍵穴が施されており、簡単には開けられないようだった。
「これは厄介だな」イシェはため息をついた。「この鍵を開けるには、特殊な技術が必要だぞ」
その時、テルヘルが小さな箱を取り出した。「私が持ってきたものだ」と彼女は言った。箱の中には、繊細な金属製の工具がぎっしり詰まっていた。
「これは…?」イシェが驚きの声を上げた。
「私の特技だ」テルヘルは微笑んだ。「私はヴォルダン王家の歴史を研究し尽くした。この鍵穴は、古代のヴォルダン王家特有の技術で作られたものだ。私はその解読方法を知っている」
テルヘルの手は器用に工具を操り始めた。彼女の指先はまるで踊るように動き、複雑な鍵穴に工具がはまり込むたびに、微かな音が響いた。イシェとラーンは息をのんで見守った。
やがて、鍵穴から「カチッ」という音がした。扉がゆっくりと開いた。その向こうには、広大な書庫が広がっていた。無数の古文書が棚に整然と並べられ、歴史の重みを感じさせる空間だった。
「やった…」ラーンは興奮を抑えきれずに声を上げた。イシェもテルヘルと共に、書庫の中へと足を踏み入れた。彼らには、まだ知られていない真実が眠っている書庫が待っていた。