「よし、今回はあの崩れかけた塔だな」ラーンが剣を肩に担ぎ、イシェに声をかけた。イシェはいつものように眉間にしわを寄せ、地図を広げた。「遺跡の記録によると、そこにはトラップが仕掛けられている可能性があるわ。特に慎重に」
ラーンの耳にはイシェの言葉は届いていなかった。彼はすでに塔に向かって駆け出していた。テルヘルが提示した報酬額が大きかったためだ。最近、彼女の依頼を受ける機会が増えていたが、その理由は簡単だった。彼女はヴォルダンとの戦いに必要な資金を稼ぐために遺跡探索に熱心だったのだ。
イシェはため息をつきながらラーンの後を追った。テルヘルは彼らに「特効薬」なるものを渡していた。それはヴォルダン軍が使用する毒の antidote で、遺跡探査中に遭遇する危険から身を守るためのものだと言っていた。しかし、イシェには何か不穏な気がした。なぜ、そんな貴重な薬を彼らに?
塔の中は湿気と埃で充満し、薄暗い光だけが差し込んでいた。ラーンは宝箱を見つけると、興奮気味に開けようとした。「待て!」イシェが叫んだ。「あの紋章…これはヴォルダン軍が使うものだ!」宝箱にはヴォルダン軍のシンボルが刻まれていた。
その時、背後から何者かが襲いかかってきた。ラーンは剣を抜き、反撃した。激しい戦いの末、襲いかかってきたのはヴォルダン軍の一兵士だった。イシェは恐怖で体が震えた。「なぜ…?」ラーンの声は怒りと悲しみで震えていた。
「特効薬…」イシェの視線が床に落ちた宝箱に向けられた。そこには、ヴォルダンの紋章が刻まれた小さな瓶が転がっていた。テルヘルは彼らをヴォルダンへと導いていたのだ。