ラーンの大笑い声がビレーの朝の静けさを打ち破った。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の肩を叩いた。「また遺跡で何か見つかったのかい？」
「違うぞ！あの、あの…」ラーンは興奮気味に言葉を紡いだ。「ビレーの酒場に新しい女将さんが来たんだって！噂によると、ヴォルダンから逃げてきたらしいんだ。てめーら、見てみたいか？」
イシェはため息をついた。ラーンの興味はいつも「大穴」よりも、些細なことに移りやすい。だが、今回は少し興味をそそられた。「ヴォルダンから逃げてきたって？どんな女だ？」
ラーンは目を輝かせた。「知らねえけど、きっと特別なものに違いない！」
その夜、ビレーの酒場「荒くれ者の巣窟」には普段以上に活気があった。ラーンとイシェはカウンター席に座り、酒を飲みながら女将さんの姿を探していた。すると、扉が開き、一人の女性が入ってきた。彼女は黒髪を後ろでまとめ、鋭い眼光を向けている。その佇まいはどこか威厳があり、確かに「特別」なものを感じさせた。
ラーンが声をかけても、彼女は視線を合わせなかった。イシェはラーンの肩を叩き、「あきらめた方がいいんじゃないのか？」とささやいた。だが、ラーンの目は輝きを増していた。彼は立ち上がり、女将さんに近づいていった。「あの…」と口を開こうとした瞬間、女将さんは彼に冷たい視線を向け、「私は誰にも興味がない」と、力強い声で言った。
その瞬間、テルヘルは店の中にいたことに気づいた。彼女はカウンターの端で、静かに酒を飲んでいた。彼女はラーンとイシェを見つめ、ゆっくりと口を開いた。「あの女は、ヴォルダンに何か秘密を知っている。そして、今、逃げるために力を必要としている」
イシェは驚いてテルヘルを見た。「なぜそんなことがわかるんだ？」
テルヘルは微笑みを浮かべた。「それは…また別の日に話そう」
ラーンの興奮は冷めたが、イシェは何かを感じていた。この事件には、彼らが想像する以上の何かが隠されていると感じたのだ。そして、その「何か」が彼らを特別な場所へと導くのかもしれないと感じた。