「よし、ここだ！」ラーンの声が響き渡った。イシェは眉間に皺を寄せながら、ラーンが指さす洞窟の入り口を見つめた。崩れそうな石積みと、そこから僅かに漂う湿った空気。遺跡としてはあまりにも質素すぎる印象だった。「また大穴か？」イシェは呟いた。「今回は違う！感じるんだ、何かがここにあるって！」ラーンの目は輝き、興奮気味に剣を構えた。イシェはため息をつきながら、テルヘルに視線を向けた。
テルヘルはいつものように冷静だった。彼女は洞窟の入り口で立ち止まり、静かに周囲を観察していた。「様子を見る」とだけ言い残し、洞窟に足を踏み入れた。ラーンはテルヘルの後ろを走り、イシェも仕方なくついていった。
洞窟内は予想以上に暗く、湿った臭いが鼻腔を刺激した。足元は不安定で、石ころが転がりやすい。イシェは気を引き締めて進んだ。
「ここら辺で何かあったはずだ」ラーンが言った。「以前、この遺跡の記録を見たことがあるんだけど…」彼の言葉は途中で途絶えた。イシェが振り返ると、ラーンの顔色が悪くなっていた。「どうした？」イシェが尋ねると、ラーンは震える手で壁を指さした。「あ…あのマーク…」
壁には、かすかに見える奇妙な記号が刻まれていた。イシェもその記号を見たことがある。かつて遺跡探検中に見つけた古い文献に載っていた記号だった。それは「物故」の兆候を示すものだと書かれていた。イシェは背筋が寒くなった。「ラーン、これは…」
その時、洞窟奥から不気味な音が聞こえてきた。それはまるで何かの呻き声のようだった。ラーンの顔には血の気が引いた。テルヘルは剣を抜き、イシェに「後ろを取れ」と指示した。三人は緊張した面持ちで、音のする方向へとゆっくりと足を進めた。
洞窟奥の空間には、薄暗い光が差し込んでいた。その中心には、巨大な石棺が置かれていた。石棺の上には、先程の記号と同じものが刻まれており、そこから不気味な音が発せられていた。イシェは恐怖で体が硬直した。ラーンは震える手で剣を構え、テルヘルは石棺に近づきながら、何かを呟いていた。「これは…」
石棺の蓋がゆっくりと開き始めた。その瞬間、洞窟内に冷たい風が吹き荒れた。イシェは目を閉じた。そして、その時、彼女は自分の運命を知るだろう。