ビレーの薄暗い酒場には、いつも通りの喧騒が渦巻いていた。ラーンは木製の杯を傾け、苦い酒を流し込んだ。イシェは向かいに座り、眉間にしわを寄せながら帳簿に目をやっていた。
「また赤字か?」
ラーンの言葉にイシェは小さく頷いた。
「あの遺跡は期待外れだった。あの巨大な石碑の奥には、ただの錆びた剣しか無かった」
イシェの物憂げな視線は、酒場の喧騒を背に、遠くの街の外れにある山々に向かっていた。あの山の向こう側に、伝説の大穴があると信じている者は多い。だが、何十年も探しても、その大穴に辿り着いた者はいなかった。
「まあ、仕方ないだろう。次はテルヘルが次の遺跡の場所を教えてくれるはずだ」
ラーンはそう言って立ち上がった。イシェも帳簿を閉じ、静かに席を立った。二人は互いに言葉は交わさなかったが、共通の不安を感じていた。テルヘルが最近、どこか様子がおかしいのだ。いつもより口数が少なく、顔色が悪い。そして、どこか遠くを見つめるような、物憂げな表情をしていた。
酒場を出ると、冷たい夜風が二人を包んだ。ビレーの街灯は薄暗く、影が長く伸びていた。二人は肩を並べて歩き始めた。ラーンの足取りは重かった。イシェもまた、何かを予感しているような気がした。テルヘルが隠している何か。そして、それが彼らの人生にどのような影響を与えるのか。
不安な夜風が、二人の背中を冷やしていく。