「よし、今回はあの洞窟の奥へ行くぞ!」
ラーンの豪快な声にイシェはため息をついた。
「また大穴だなんて言うなよ。あの洞窟は危険だって聞いたじゃないか。それに、あの遺跡から持ち出せるものは限られてるだろう。本当に価値のあるものが見つかる見込みがあるのか?」
イシェの言葉にラーンはニヤリと笑った。
「心配しすぎだよ、イシェ。俺には何かいい予感がするんだ。必ず大穴を見つける!」
そんなラーンの言葉も、イシェの耳にはただの希望に満ちた戯言にしか聞こえなかった。
彼らはテルヘルが雇った遺跡探検隊の一員だ。テルヘルはヴォルダンへの復讐を果たすため、遺跡から貴重な遺物を集めている。彼女は報酬として金銭ではなく、必要な物資を要求してきた。イシェはテルヘルの目的には疑問を抱いていたが、彼女に頼るしか道はない状況だった。
今回はテルヘルが特に必要としているのは、ある種の鉱石だった。それは遺跡の奥深くで採れる非常に珍しいもので、武器や防具を作る際に重要な材料になるという。
「よし、準備はいいか?」
ラーンの言葉にイシェとテルヘルが頷くと、三人は洞窟へ足を踏み入れた。洞窟内は暗く湿っており、不気味な空気が漂っていた。進むにつれて壁には奇妙な模様が刻まれており、どこか不穏な雰囲気を醸し出している。
ついに奥深くまでたどり着き、イシェの目の前に広がる光景に息をのんだ。そこには、テルヘルが求めていた鉱石が山のように積まれている場所があった。
「見つけたぞ!大穴だ!」
ラーンの興奮の声に、イシェも思わず笑顔を見せた。しかし、その喜びは長くは続かなかった。洞窟奥深くから、不気味な唸り声が響き始めたのだ。
「なんだあの音…」
イシェが不安そうに呟くと、突然洞窟の入り口付近で地面が崩れ落ちた。巨大な影がゆっくりと現れ、三人に襲いかかってきた。
「しまった!罠だったのか!」
ラーンは剣を抜いて立ち向かったが、その怪物には歯が立たない。イシェも必死に抵抗するが、その力は圧倒的に劣っていた。
その時、テルヘルが何かを叫んだ。「ラーン、イシェ、逃げろ!私はここで時間を稼ぐ!」
彼女は手から光る石を取り出し、怪物を攻撃した。その光は怪物を怯ませたものの、長くは持たないだろう。
「逃げろ!私を置いて逃げるんだ!」
テルヘルの言葉に、ラーンとイシェは渋々洞窟から脱出を始めた。振り返ると、テルヘルは怪物を相手に奮戦していたが、その姿はどんどん小さくなっていく。
洞窟を出た後、ラーンとイシェは深くため息をついた。テルヘルが残した物資と引き換えに、彼女は命をかけて時間を稼いでくれたのだ。彼らは深い悲しみを抱きながらも、テルヘルの願いを叶えるために、彼女の代わりに遺跡から鉱石を持ち帰る決意をした。
「よし、イシェ、俺たちにはまだやるべきことがあるんだ。」
ラーンの言葉に、イシェは頷いた。
二人は鉱石を運び出し、テルヘルの物資と交換し、彼女が望むようにヴォルダンへの復讐の手助けをするための準備を進める決意をした。