「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂では奥深くで何かが見つかったらしいぞ」ラーンの興奮した声がビレーの賑やかな市場を掻き消すほど大きく響いた。イシェはため息をつきながら、彼の背後から続く。
「またそんな噂話に騙されるのか?あの塔は危険だって何度も言ってるじゃないか!」
「大丈夫だ大丈夫!今回は違うって感じがするんだ。ほら、テルヘルさんも賛成してるだろ?」
ラーンの視線は、少し離れた場所で冷静な表情を崩さぬテルヘルに向いていた。彼女は小さく頷き、薄暗い瞳で塔の方角を見つめた。その鋭い眼光には、単なる遺跡探索以上の何かが宿っていた。イシェは彼女の目つきを見て背筋がぞっとした。
「よし、準備はいいか?今回は大穴が見つかる予感がする!」ラーンの豪快な笑い声が響き渡る中、3人は崩れた塔へと進んでいった。
塔の内部は薄暗い。埃っぽい空気が彼らの肺を刺激し、足元には崩れ落ちた石が散らばっていた。ラーンは先頭に立って行く手を切り開き、イシェは慎重に後をついていく。テルヘルは2人の後ろを少し離れた位置で歩み、常に周囲を警戒していた。
「ここだな」
ラーンが奥深くまで進んでいった先に広がる空間を指さした。そこには、祭壇のような石の台座があり、その上に小さな箱が置かれていた。箱は劣化し、ほとんど原型をとどめていなかったが、それでもそこに何か特別なものが秘められているような気がした。
「これは…」イシェが慎重に箱を手に取ると、中から一枚の古い地図が姿を現した。地図は劣化しており、ほとんど読み解けないほどだったが、そこには奇妙な記号と、どこか見覚えのある形をした場所が描かれていた。
「これは何だ?」ラーンが地図を覗き込んだ時、テルヘルが彼の背後から声をかけた。
「地図の一部だ…そして、これが我々の目的である」
テルヘルは地図を奪い取り、自分の懐にしまった。その表情には、今まで見せたことのない狂気のような光が宿っていた。イシェは彼女の目を見て、何か大きな秘密に触れてしまったような予感がした。
「さあ、出発だ。次の目的地に向かうぞ」
テルヘルはそう言い、3人を再び遺跡の奥へと導いていった。イシェは地図に描かれた記号を思い出しながら、不安な気持ちを抑えきれなかった。それはまるで、二つの魂が一つになるように…片割れを探し求めるかのようだった。