ラーンが石の破片を蹴飛ばすと、イシェは眉間に皺を寄せた。「また無駄なことを…」と呟きながら、彼女は丁寧に地図を広げた。
「よし、今日はあの崩れかけた塔を目指そう。」ラーンの顔は興奮で輝いていた。イシェはため息をついた。「また大穴だと?ラーン、あの塔は危険だって聞いたわよ。遺跡探検家ですら近づかないって」
「大丈夫だ、イシェ!俺たちの運気が今日爆発するぞ!」
ラーンがそう言うと、テルヘルが鋭い目で彼らを睨んだ。「無駄な勇気は必要ない。目標を達成するための計画と冷静さが必要だ。」彼女の言葉は氷のように冷たかった。ラーンの顔色が少し曇ったが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「ああ、そうだね。テルヘルさん、いつもありがとう!お前のおかげで俺たちは安全に探検ができるんだ」
イシェはテルヘルの存在に複雑な感情を抱いていた。彼女は彼らを危険な遺跡へと導く一方で、その知識と冷静さで彼らを助けてくれる。まるで、影から糸を操る人形使いのようだった。
崩れかけた塔の入り口に差し掛かった時、ラーンは一瞬立ち止まった。「イシェ…」彼は呟いた。「あの塔…どこかで見たことがある気がするんだ」イシェは驚いた。「そんなはずはないでしょう?ラーン、あなたは幼い頃に一度だけビレーの外へ行っただけで、それ以来ずっとこの街で暮らしているはずです」
ラーンの顔色は白くなった。「そうだったのか…」彼は目を伏せた。「父が…あの塔について話していたような気がするんだ…」
イシェはラーンの言葉に心を痛めた。ラーンの父は、何年も前に謎の失踪を遂げた人物だった。彼がなぜ塔について話していたのか、そしてなぜラーンが塔に強い思い入れを持っているのか、イシェには理解できなかった。だが、彼女はラーンの苦しみを察し、彼の手を握りしめた。
「大丈夫よ、ラーン。一緒に探そう。もしかしたら、何か手がかりが見つかるかもしれない」
ラーンの目から涙が溢れた。「ありがとう…イシェ」
テルヘルは冷徹な表情で二人を見下ろしていた。彼女の目的は遺跡の遺物とヴォルダンの復讐だけだった。だが、ラーンの言葉にはどこか彼女を揺さぶるものがあった。まるで、遠い過去に眠る秘密が、今、この場所に存在しているかのように…。