ビレーの夕暮れ時、ラーンが酒場で大声をあげていた。「今日の遺跡探検、また大ハズレだったな!あの宝箱、開けたらただの石ころが入ってたってか!」イシェは顔をしかめて「言っただろう。あの地図は偽物だって」と呟いた。ラーンの豪快な笑い声は、イシェの冷静さをかき消し、酒場の喧騒に溶けていった。
その時、テルヘルがテーブルに近づいてきた。「次の仕事だ」と、彼女は冷たく言い放った。ラーンは目を輝かせ、「早速か?どんな遺跡だ?」と尋ねた。テルヘルは一枚の地図をテーブルに広げた。「ヴォルダン領境に近い場所にある。危険な遺跡だが、報酬は高額だ」
イシェは地図をじっと見つめた。「ヴォルダン領境…なぜあそこに行く必要があるのか?」テルヘルは目を細め、「それは重要ではない。お前たちには探索だけを頼む。その代わりに、十分な報酬と安全を保障する」と告げた。ラーンの顔に興奮の色が浮かび上がったが、イシェは不安を感じていた。ヴォルダン領境は危険な場所であり、何よりもテルヘルの目的が不明だった。
翌日、三人は遺跡へと向かった。深い森の中を進み、やがて朽ち果てた石造りの門に辿り着いた。門には奇妙な模様が刻まれており、ラーンは「何か不気味だな…」と呟いた。イシェは地図を広げながら「ここはかつてヴォルダンの王族が住んでいた場所らしい」と説明した。
遺跡内部は暗く湿っていた。石畳の床には苔が生え、天井からは鍾乳石が垂れ下がっていた。ラーンは剣を構えて周囲を見回し、イシェは慎重に足元を確認しながら進んだ。テルヘルは先頭を歩き、時折振り返って二人の様子を見つめていた。
やがて彼らは大きな部屋に辿り着いた。中央には巨大な石棺が置かれており、その周りに奇妙な紋様があしらわれた柱が並んでいた。ラーンの視線は石棺に釘付けになり、興奮した様子で「ついに大穴だ!」と叫んだ。イシェは冷静に「まだ分からない」と制止するが、ラーンはすでに石棺に近づき始めた。
その時、石棺の蓋が開き始めた。そこから黒い煙が立ち上り、不気味な光が部屋中に広がった。ラーンの顔色が変わり、「何だこれは…」と呟いた。イシェは恐怖を感じながら後ずさった。「ここは危険だ!逃げよう!」
しかし、遅かった。石棺から黒い影が飛び出し、ラーンを襲った。ラーンは剣で応戦するも、黒い影は素早く動き回り、ラーンの攻撃をかわし続けた。イシェはテルヘルに助けを求めたが、彼女は静かに立ち尽くしていた。
「これは…ヴォルダン王家の呪いだ…」テルヘルは呟いた。その目は冷たい光を放っていた。「この遺跡には、ヴォルダンに爪弾きされた者たちの怨念が集まっている。お前たちは巻き込まれただけだ」