「準備はいいか?」ラーンの粗い声とイシェの静かなため息が、薄暗い洞窟の入り口に響き渡った。テルヘルは後ろから二人の様子をじっと見つめていた。彼女の深い藍色の瞳には、いつもの冷たさと共に、何か燃えるようなものが宿っていた。
「今回は大物だぞ!」ラーンが興奮気味に剣を構えた。イシェは懐から小さな石版を取り出し、薄暗い光を放つ結晶で照らした。「地図によると、この遺跡の中央部にある部屋には、ヴォルダンが奪った遺物の一つが眠っているらしい」テルヘルはそう言った。その声は冷静だが、わずかに震えているように聞こえた。
彼らは慎重に洞窟の奥へと進んでいった。壁には何世紀も前に刻まれた奇妙な文字が刻まれており、時折、不気味な音が響き渡る。ラーンは先頭を歩き、イシェは彼の後を少し遅れてついていく。テルヘルは二人が通った後を注意深く確認しながら進んだ。
狭い通路を抜けると、広々とした石室が現れた。中央には巨大な祭壇が置かれ、その上に何かが覆われている。ラーンが興奮気味に祭壇に近づこうとした時、イシェは彼の腕をつかんだ。「待て、ラーン!」彼女は静かに言った。「何か変だ」
その時、床から鋭い爪が突き刺さってきた。ラーンの足元をわずかに掠め、石壁に深く食い込んだ。ラーンは驚いて後ずさりし、剣を構えた。イシェは小さな声でつぶやいた。「罠だ!」
影の中から何者かが現れた。それは巨大な獣のような姿で、鋭い爪と牙を持ち、赤く燃えるような目で二人を見つめていた。ラーンの表情は一変し、真剣に剣を握り締め直した。「イシェ、気をつけろ!」
テルヘルは冷静に状況を判断し、小さな筒状の物体を投げつけた。それは爆発し、獣の顔面に直接命中した。獣は苦しそうに唸りを上げ、目をぎらつかせながら、ラーンとイシェへ襲いかかった。
激しい戦いが始まった。ラーンの剣と獣の爪が激しくぶつかり合い、イシェは素早い動きで獣の攻撃をかわしながら反撃を繰り出した。テルヘルは後ろから弓矢で援護射撃を加えた。獣は強敵だったが、三人とて手ごわい相手だった。
戦いの最中、イシェは獣の動きに違和感を感じた。「あの爪先…どこかで見たことがある」彼女は心の中で呟いた。その時、記憶が蘇ってきた。古い書物に載っていた記述だ。この遺跡に眠る獣は、かつてヴォルダンによって改造された存在だったと。そして、その改造の鍵を握るのは、獣の爪先に隠されているという…。
イシェはラーンとテルヘルに声をかけた。「あの爪先を狙え!」彼女の言葉に促され、ラーンは獣の爪先に剣を突き立てた。鋭い音が響き渡り、獣は悲鳴を上げて倒れ込んだ。その瞬間、獣の爪から不思議な光が放たれた。
イシェは光の中に何かを感じ取った。それは、ヴォルダンによって奪われた遺物ではない何かだった。そして、それがこの世界に大きな影響を与える可能性があることを彼女は直感した。