ビレーの朝の喧騒が、ラーンの耳に心地悪く響いた。イシェはいつものように、彼を待たせていることに苛立ちを隠さない。「今日は早く行かねばならぬぞ、ラーン。テルヘルは時間厳守だ」
ラーンの寝ぼけた顔に、イシェはため息をついた。昨日も大酒を飲んで、今日の探索への準備を怠っていたのだ。テルヘルが用意した遺跡は、ヴォルダンとの国境に近い危険な場所だった。「あの遺跡には危険な罠があるという噂だぞ。特に気をつけろ」
ラーンの顔色が変わった。「そんな噂は聞いたことがない。大丈夫だ、イシェ。俺がいるから安心しろ!」
イシェは彼の言葉に苦笑した。いつも通り、ラーンは楽観的すぎる。テルヘルが用意した地図を握りしめ、遺跡の入り口へと向かった。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気が漂っていた。ラーンの足音だけが響き渡る静寂の中、イシェは背筋が寒くなった。「何か感じるぞ…」
「何を感じる?」ラーンは不自然なほど明るい声で答えたが、彼の目は警戒を怠っていなかった。
その時、地面に埋められた石碑から赤い光が放たれた。一瞬にして遺跡全体を赤く染め上げ、激しく揺れる壁から塵埃が舞い上がった。「これは…!」イシェは言葉を失った。石碑からは爆発的な熱気が噴き出し、周囲の岩盤を溶かし始めた。
ラーンは素早くイシェを引っ張り、炎の波から逃れた。しかし、石碑のエネルギーは止まらず、遺跡全体に広がっていくように見えた。「逃げろ!」テルヘルの声が響いた。三人は狭い通路に飛び込んだ。
爆発音と共に崩落する遺跡。ラーンの顔には、初めて見たような真剣な表情があった。「イシェ、大丈夫か?」
イシェは顔を上げると、ラーンの目に真摯な心配が浮かんでいた。その時、イシェは彼の中に芽生える可能性を感じた。 それは、楽観的な彼の奥底に眠る、真の強さなのかもしれない。