「おい、イシェ、どうだ?今日は何かありそうな気がするぜ!」
ラーンの元気な声がビレーの朝の静けさに溶け込んでいった。イシェはいつものように、ラーンの無鉄砲さにため息をついた。
「また大穴の話か。そんな簡単に宝は出ないって、何度言ったらわかるんだい?」
イシェがそう言うと、ラーンはニヤリと笑った。
「でも、いつか必ず見つけるさ!それに、今日はテルヘルさんも一緒だぞ?彼女は遺跡の知識も豊富だし、何か手がかりがあるかもしれない!」
確かに、テルヘルは情報収集能力に長けており、過去の記録や文献を熟知している。イシェは内心ではラーンの楽観性に少し期待する部分もあった。
今日は、ビレーから北へ数日の道のりを隔てた遺跡探査に向かう予定だった。目的の遺跡は、かつてヴォルダン帝国の軍事拠点だったという伝承が残っており、危険な場所として知られていた。テルヘルが特に興味を示したのは、遺跡中央にあるとされる巨大な石碑だ。
「あの石碑には、ヴォルダンの秘密が隠されているかもしれない…。」
テルヘルはそう呟きながら、地図を広げていた。
イシェはテルヘルの言葉に少し引き込まれた。彼女がヴォルダンへの復讐心を燃やす理由を、まだ完全に理解することはできなかったが、その強い意志と行動力は、イシェ自身の心に何かを呼び起こすものがあった。
遺跡に到着したのは夕方だった。薄暗がりの中、巨大な石造りの門がそびえ立っていた。ラーンは興奮気味に門を開けようとすると、イシェは彼を制止した。
「ちょっと待て。ここは慎重に進まないと…」
イシェは周囲を警戒しながら、静かに門の隙間を覗き込んだ。
その瞬間、石造りの壁から奇妙な音と光が放たれ、イシェの目の前に影のようなものが現れた。
「何だ…!」
ラーンが剣を抜きながら叫ぶと、影は素早く動き、彼に襲いかかった。
激しい戦いが始まった。ラーンの剣技は熟達しており、影を翻弄するが、その影には不思議な力があり、なかなか倒せない。イシェは冷静さを保ち、周囲の状況を観察しながら、テルヘルに指示を出す。
「テルヘルさん!あの石碑について何か情報はないんですか?」
テルヘルは地図を広げながら、真剣な表情で答えた。
「この遺跡には、ヴォルダン帝国が開発した特殊なゴーレムが眠っていると記録されている…もしかしたら…」
イシェはテルヘルの言葉を聞きながら、ラーンの戦いを注視した。影の正体は、ゴーレムだったのか?その謎を解き明かすためには、石碑の秘密に迫る必要がある。
イシェは決意を新たにした。ラーンとテルヘルと共に、この遺跡の真実を明らかにするのだ。そして、いつかラーンの大穴探しを手伝うことも…そう思った時、イシェの胸には不思議な高揚感が広がった。