「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂では奥深くには未踏の部屋があるらしいぞ」
ラーンが目を輝かせて地図を広げた。イシェは眉間にしわを寄せた。
「また危険な場所かい？ ラーン、あの塔は地元の人々から『呪われた塔』って呼ばれているんだよ。何か不気味な音が聞こえるって話もあるんだ」
ラーンの豪快な笑いは、イシェの慎重さを一蹴した。「そんな話は気にすんな。俺たちにはテルヘルさんがいるぞ！ それに、危険な場所こそ大穴が眠っている可能性が高いんだ！」
テルヘルはいつものように、静かにテーブルを挟んで彼らを眺めていた。鋭い視線は、まるで二人の魂を透かしているようだった。ラーンの熱意に少しだけ微笑みを浮かべた後、彼女は口を開いた。
「私は危険を恐れない。だが、無駄なリスクは避けたい。イシェの言うように、その塔には何かがいる可能性もある。注意が必要だ」
ラーンの顔色が少し曇ったが、テルヘルは彼の視線にしっかりとした意志を宿したまま言った。
「準備はいいか？ 私はこの遺跡調査で、ヴォルダンへの復讐に近づけるかもしれない。そして、お前たちにも未来がある」
その言葉にラーンは再び闘志を燃やし、イシェも小さく頷いた。テルヘルが彼らに与えたのは、単なる指示ではなく、ある種の約束だった。彼女自身の復讐のために、そして彼らを巻き込んだことで生まれた、奇妙な連帯感。
三人は塔へと向かった。ラーンの背中は広く、イシェは少しだけ照れたように後ろをついていった。テルヘルは二人の背中を静かに見つめながら、自分の心に秘めた炎を燃やした。