「おい、イシェ、今日の目標はあの崩れかけた塔だな。あの辺りに奇妙な金属片が落ちてるって噂だろ?もしかしたら大穴につながってるかも!」
ラーンの興奮した声は、薄暗いビレーの酒場で響き渡った。イシェはため息をつきながら、彼の肩を軽く叩いた。「落ち着いて、ラーン。噂話に踊らされるな。あの塔は危険だって何度も言ってるだろう?崩落する可能性が高いし、ヴォルダンの兵士がうろついてるかもしれない」
しかしラーンの目は輝いていた。「大穴が見つかるチャンスだ!イシェ、お前も夢見てないのか?富と名誉を手に入れて、ビレーを出て自由に暮らすんだ!」
イシェはラーンの熱意に押し切られ、小さく頷いた。彼女はラーンの夢を信じているわけではない。しかし、彼と一緒にいることで、いつか「焼け付いた」ような日常から抜け出せるかもしれないという希望を秘めていた。
その時、扉が開き、黒髪の女性が店内に入った。テルヘルだ。鋭い眼光で二人を見据え、「準備はいいか?」と冷たく尋ねた。ラーンは興奮気味に頷き、イシェも諦めたように頷いた。
「よし、行くぞ!」
三人は酒場を後にして、夕暮れのビレーの街を後にした。荒涼とした大地が広がるその先に、崩れかけた塔が立っていた。
塔に近づくと、空気が重く、不気味な静けさに包まれていた。イシェは緊張感を覚えた。「本当にここに来るべきだったのか…?」と呟いた。しかしラーンは気にせず、塔の中へと入っていった。テルヘルもそれに続いた。
イシェは後ろ髪を引かれる思いで、二つの影の後を追うように塔に入った。石畳の上には、かつての栄華を物語る彫刻が崩れ落ち、埃をかぶっていた。薄暗い内部は、まるで焼け付いたような空気を漂わせていた。
「ここか…」
テルヘルが指さした先には、奇妙な金属片が散乱していた。ラーンは目を輝かせながら、近づいていった。「これは…!」
その時、床が崩れ落ち、ラーンは深い闇の中に吸い込まれてしまった。イシェは絶叫し、手を伸ばしたが、ラーンの姿は見えなくなってしまった。
「ラーーン!」
イシェの声だけが、焼け付いたような静寂に響き渡った。