ビレーの酒場「荒くれ者の巣」はいつも通り賑やかだった。ラーンがイシェとテーブルを囲んで酒を傾けていると、テルヘルが近づいてきた。
「準備はいいか？」
テルヘルは鋭い視線で二人を見据えた。ラーンの顔にはいつもの好戦的な笑みが浮かんでいたが、イシェは眉間に皺を寄せながら首を振った。
「あの遺跡は危険すぎるだろう。特に今は…」
「臆病者だな、イシェ」
ラーンが笑い飛ばした。テルヘルも軽く笑ってイシェを睨むと、テーブルに広げた地図を指さした。
「今回は特別だ。ヴォルダンとの国境付近の遺跡だ。そこにはヴォルダンが隠しているという重要な情報があるらしい。それを手に入れるためには、あの遺跡に入るしかない」
イシェは地図を覗き込んだ。複雑な地形が記された地図に、赤いマークで示された遺跡の位置は、確かに危険な場所だった。
「情報源は確実なのか？」
テルヘルはニヤリと笑った。
「大丈夫だ。私の情報網は広い。あの遺跡にはヴォルダンが何十年も前に何かを隠したらしい。それが何かはわからないが、我々にとって価値があるはずだ」
イシェは納得する気配がない。ラーンは立ち上がり、テーブルを叩いた。
「よし、行こう！大穴が見つかるかもしれないぞ！」
イシェはため息をつきながら立ち上がった。テルヘルの言葉には嘘はないと感じていた。だが、この遺跡がヴォルダンと何か関係があるという事実だけが、イシェの不安を増幅させた。
彼らはビレーを後にし、荒野へと向かった。日が沈む頃、遺跡に到着した。巨大な石造りの門が、まるで巨人の墓のようにそびえ立っていた。
「ここは本当にヴォルダンが手を出した場所なのか…」
イシェは不安そうに呟いた。ラーンは剣を構え、テルヘルと共に遺跡へと踏み込んだ。