「よし、今回はあの崩れかけた塔だな。噂では奥深くには未踏の部屋があるらしい」ラーンの言葉にイシェが眉間に皺を寄せた。「また噂話か?そんな危険な場所へ行く前に、ビレーの近くの遺跡でも十分だ」
「面白くないなぁ、イシェ。大穴を掘るには、たまにはリスクを取らなきゃ。」ラーンは意気揚々として剣を背負い、「それにテルヘルが報酬を増やしてくれたんだぞ?あの崩れかけた塔、もしかしたら何か見つかるかもな」
テルヘルは鋭い目を細めながら二人を見下ろした。「危険な場所ほど貴重な遺物が見つかる可能性が高い。今回は特に、ヴォルダンとの関係があるかもしれない情報が隠されている可能性もある」彼女の言葉には冷酷な決意が込められていた。
崩れかけた塔の入り口は、まるで巨大な獣の口のように開いていた。内部は薄暗い闇に包まれ、朽ちた石畳が足元を不安定にした。「ここは本当に安全なのか?」イシェの疑念の声が響く中、ラーンは軽快に塔の中へと足を踏み入れた。
石柱が崩れ落ち、天井から岩が雨のように落ちてくる。危険な場所だったが、ラーンの目は輝きを帯びていた。彼は興奮気味に、深く暗い通路へと進んでいった。イシェはため息をつきながら彼の後を追った。テルヘルは二人を見つめ、薄暗い通路に続く階段をゆっくりと降りていった。
塔の奥深くでは、朽ちた宝箱が散乱していた。ラーンは興奮気味に宝箱を開け始めたが、中には錆び付いた武器や壊れた装飾品しか入っていなかった。「まったく…」彼は肩を落とした。イシェは冷静に周囲を見回し、崩れかけた壁に何かが隠されていることに気づいた。
「ラーン、ここを見て!」イシェの指さす方向には、壁の一部が不自然に盛り上がっていた。彼らは協力して石を動かすと、そこには小さな扉が現れた。扉を開けると、中には埃まみれの書物と、奇妙な金属製の球体があった。
「これは…?」ラーンは書物を手に取り、ページをめくり始めた。「何かの記号が書かれている…」イシェは球体を触ると、その表面に複雑な模様が刻まれていたことに気づいた。その時、突然床から水が噴出し、部屋が水浸しになった。
「しまった!ここは罠だった!」イシェは叫んだ。ラーンは慌てて書物と球体を守ろうとしたが、水流に飲み込まれてしまった。イシェは必死に彼を助けようとしたが、すでに手遅れだった。
水位が上昇する中、イシェは絶望的な表情を見せた。ラーンの姿が見えなくなった瞬間、彼女の心は氷のように冷たくなった。そして、床から湧き上がる水の中に、無残に沈んでいくラーンの姿を最後に見た。