「おい、イシェ、あれが遺跡の入り口か？」ラーンが指差す先には、苔むした石畳と崩れかけた壁が見えた。
イシェは地図を広げて確認し、小さく頷いた。「そうだ。ここだな。テルヘルからもらった情報によると、奥に貴重な遺物があるらしい。」
ラーンの顔に興奮の色が浮かんだ。「よし、ついに大穴を掘り当てられるかもな！イシェ、準備はいいか？」
イシェは Sigh を吐きながら、懐からランタンを取り出した。「いつも通り、計画も立てずに飛び込むな、ラーン。あの遺跡はかつてヴォルダンの軍が占拠していたという記録がある。危険だぞ。」
「大丈夫だって！俺たちが最強のコンビだもん！」ラーンは胸を張ったが、イシェは彼の背中に影が伸びるのを気にしながら後ろについていった。
遺跡内部はひんやりと湿っていた。崩れかけた石柱からは、かつて栄えた文明の面影がうかがえた。
「ここら辺はヴォルダン軍が侵攻してきた時に激しい戦いが行われたらしいな。」イシェが呟くと、ラーンは不自然に緊張した表情を見せた。
「そんなことより、早く遺物を見つけろよ。テルヘルが言っていたように、あの奥にある部屋には貴重なものが眠っているはずだ！」
二人は遺跡の奥へ進んでいった。道中は足元が悪い上に、崩れ落ちそうな天井から常に危険が迫っていた。イシェは慎重に進むが、ラーンは興奮して駆け足で進んでいたため、イシェは何度も彼を引っ止めた。
「待てラーン！あそこは危ないぞ！」
しかしラーンの耳には届かなかった。彼はイシェの制止を振り切って、薄暗い奥へ入っていった。その時、地面が崩れ落ち、ラーンは深い穴に落ちてしまった。
「ラーン！」イシェが叫んだ。
穴からは、底なしの闇が広がっていた。ラーンの姿は見えない。イシェは恐怖と絶望を感じた。
「ラーーン！」
その時、遠くからかすかな声が聞こえた。それはラーンの声だった。
「イシェ！大丈夫だ！ここには何かがあるぞ！」
声の方へ目を凝らすと、ぼんやりと光が見える。イシェは恐る恐る近づいていくと、そこは広くて豪華な部屋だった。壁には美しいモザイク画が描かれており、中央には輝く宝箱が置かれている。
ラーンの姿が見えた。彼は宝箱を前に興奮気味に話している。
「イシェ、見てくれ！大穴だ！」
しかし、イシェはラーンの言葉に耳を傾けなかった。彼の視線は部屋の奥に注がれていた。そこには、深い闇の中、何かが蠢いているように見えた。それはまるで、かつてこの遺跡を支配した文明の残留思念であり、今なおこの地に濁流のように渦巻いているようだった。
イシェは背筋が凍りつく感覚を感じた。この遺跡の真実は、彼らが想像していた以上に恐ろしいものであったのかもしれない。