「よし、今回はあの崩れた塔だ！」ラーンの声がビレーの朝の喧騒を掻き消すほど大きく響いた。イシェはため息をつきながら、いつものように準備を整えた。ラーンの計画性なき行動にいつも振り回されるのだが、彼にはどこか惹かれるものがある。
「今回は大穴が見つかる予感がするんだ！」ラーンの瞳は輝き、剣を研ぎ澄ますように鋭く光っていた。「あの塔の奥深くに眠っているはずだ、古代文明の秘宝が！」
イシェは彼の熱意に苦笑した。ラーンが言う「大穴」とは、遺跡探索で掘り当てられると噂される莫大な財宝のことだった。だが、今まで幾度となく遺跡を探検しているにもかかわらず、その伝説的な財宝には未だに出会ったことがない。
「落ち着きなさい、ラーン。あの塔は危険だぞ」テルヘルが静かに口を開いた。「かつて調査隊が足を踏み入れた際に、何者かの襲撃を受けたと記録されている。我々が注意を怠れば同じ目に遭う可能性もある」
テルヘルは冷静沈着な人物だ。彼女はヴォルダンに全てを奪われた過去を持つ復讐者であり、その目的達成のためには手段を選ばない。ラーンとイシェを利用するのも、彼女の計画の一部に過ぎなかった。
「大丈夫だ、テルヘル。俺たちならなんとかなるさ！」ラーンの自信は揺らがない。彼は剣を腰に当て、イシェの手を取った。「さあ、行こう！大穴が待っているぞ！」
イシェはラーンの手に力を込められ、深くため息をついた。彼の大胆さは時に危険だが、そこに魅力があるのも事実だった。三人はビレーの喧騒を背に、崩れた塔へと向かった。
塔の入り口には奇妙な紋章が刻まれていた。古代文明の遺跡らしい雰囲気を漂わせ、同時に不気味な予感を漂わせていた。イシェは背筋がゾッとするのを感じたが、ラーンは目を輝かせ、意欲的に塔の中へと進んでいった。
「よし、ここからは慎重に進むぞ！」ラーンの声が響き渡った。だが、その言葉が終わりかけた瞬間、塔の奥深くから不気味な音が聞こえてきた。それはまるで獣の咆哮のようでありながら、どこか機械的な音も混ざり合っている。
ラーンは一瞬躊躇したが、すぐに剣を構え、イシェとテルヘルに「行くぞ！」と叫び声を上げた。三人は未知なる危険へと立ち向かっていった。