ラーンが石の埃まみれになりながら遺跡の奥深くへ足を踏み入れると、イシェが後ろから「またしても迷子か?」と呆れた声で言った。ラーンの背中は、いつもより少しだけ丸まっているように見えた。
「いや、今回は違うんだ。この壁の模様…見てみろ!」
ラーンは興奮気味に壁を指さした。確かに、そこには複雑な模様が刻まれており、今まで見たことのないものだった。イシェも眉間に皺を寄せ、しばらく見つめた後、「これは…」と呟いた。
「もしかしたら、この遺跡の核心を示すヒントなのかもしれない」
イシェの言葉に、ラーンは目を輝かせた。いつもならすぐに飛びつこうとする彼だが、今回は何か違う。イシェの冷静な判断を待っているようだった。
「でも、ここからは危険が増すぞ」とイシェは続けた。「特にテルヘルが言っていたあの場所へ行くには…」
「ああ、あの場所か…」ラーンは小さくうなずいた。
テルヘルの依頼で訪れたこの遺跡。彼女は、ヴォルダンに奪われた大切なものを取り戻すための手がかりがあると信じて疑わなかった。そのために必要なのは、この遺跡の奥深くにあるという伝説の部屋だ。だが、その場所へ通じる道は、多くの罠と危険が待ち受けていると言われている。
ラーンの心には不安が渦巻いていた。彼はいつもイシェに助けられてきた。そして、今回は特に彼女の冷静な判断が必要だと感じていた。イシェの言葉に耳を傾け、一歩ずつ慎重に進もうとするラーンの姿は、まるで幼い頃から見守ってきたイシェの妹のようだった。
イシェはラーンの背中を押すように言った。「行くなら、準備を整えよう。そして…」
彼女は少しだけ力を込めた声で続けた。
「今回は、俺たちがラーンを導く番だ」