ビレーの酒場「荒くれ者」の喧騒が、ラーンの耳を襲った。イシェが彼の手首を軽くつかむ。
「まだ騒がしいな。今日は早く帰りたいって言ってたろ?」
ラーンは苦笑した。「ああ、そうだな。テルヘルに言われた通り、あの遺跡は急いで調査しないとダメなんだよな。特に俺たちが先に遺物を発見できるかどうかが重要だって言うんだ」
イシェは眉をひそめた。「またテルヘルの言うままに動いてるよ。あの人の目的は一体何なんだ?」
「そりゃあヴォルダンへの復讐って話してるだろ?まあ、俺たちは報酬をもらってるだけだし、深く考えちゃいかんな」
ラーンはそう言って立ち上がり、酒を飲み干した。イシェが彼をじっと見つめた後、ため息をつきながら席を立った。
遺跡の入り口に立つと、テルヘルが待っていた。彼女は鋭い目で二人を見回し、「準備はいいか?」と尋ねた。ラーンはうなずき、イシェも小さく頷いた。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気で充満していた。足元の石畳は苔むし、崩れ落ちそうな箇所も多かった。テルヘルが先頭を行き、ラーンとイシェは後を続いた。
進むにつれて、壁には奇妙な文字が刻まれており、時折不気味な音が響いてきた。イシェは緊張した様子で周囲を見回し、ラーンの肩に手を置く。「何か変だな…」
その時、背後から激しい足音が聞こえた。ラーンとイシェが振り返ると、巨大な影が迫っていた。それは、遺跡の奥底で眠っていた怪物だった。
「逃げろ!」テルヘルが叫んだ。三人は慌てて走り出した。しかし、怪物は容赦なく追いかけてきた。
狭い通路を駆け抜ける。イシェの足がつまずきそうになるが、ラーンが彼女の手を引き上げた。後ろから聞こえる怪物咆哮が、彼らの鼓膜を震わせた。
出口が見えたその時、イシェが転んでしまった。ラーンは振り返り、彼女に手を差し伸べた。「イシェ!掴まれ!」
しかし、その瞬間、怪物が彼らに襲いかかった。ラーンの目の前が真っ赤になった。
「イシェ!」
ラーンは怪物に剣を突き立てた。だが、それは無駄だった。怪物は彼の攻撃をものともせず、ラーンを吹き飛ばした。
イシェは恐怖で言葉を失い、ただ立ち尽くしていた。ラーンが起き上がろうとした瞬間、怪物が彼の前に立ちはだかった。
その時、テルヘルが怪物に飛びかかった。彼女の剣が怪物に突き刺さった。しかし、怪物はそれでもなお、ラーンの襲いかかった。
イシェは絶望した。ラーンは、怪物に飲み込まれそうになったその時、イシェは必死に立ち上がった。彼女は小さな体で、怪物に飛びついた。
「やめて!」
イシェの叫びは、怪物に届いたのか、その動きが一瞬止まった。そして、怪物はゆっくりと後ずさった。イシェはラーンの前に立ち、彼の手を握りしめた。
「大丈夫…大丈夫…」
イシェの声が震えていた。ラーンはイシェの目に涙を浮かべていることに気づき、彼は深く頷いた。
三人は、なんとか遺跡から逃げることに成功した。しかし、その日の出来事は、彼らの心に深い傷を残すことになった。