「よし、今日はあの洞窟だ」
ラーンがそう言うと、イシェは眉間にしわを寄せた。
「またあの危険な場所? ラーン、あの洞窟には何もないって何度も言ってるじゃないか」
ラーンの目の輝きは、イシェの言葉に揺るがされなかった。「でも、今回は違う気がするんだ。何か感じるんだ、イシェ。今回は大穴が見つかる!」
イシェはため息をついた。ラーンの楽観的な性格は、時に彼女を安心させることもあれば、時には困らせることもあった。
「わかった、わかった。行くなら早く準備しよう」
テルヘルは二人が言い争う様子を静かに見ていた。彼女の目的は遺跡の遺物ではなく、ヴォルダンへの復讐だった。ラーンとイシェを利用するのもそのためだ。しかし、彼らの無邪気な姿を見るうちに、何かが胸に締め付けられるような感覚があった。
洞窟は予想以上に暗く、湿った冷気が漂っていた。ラーンの持つランタンの光が壁に影を落とし、不気味な雰囲気を醸し出す。イシェは常に周囲を警戒していた。
「ここには何もない」
イシェがそう言うと、ラーンは少し落ち込んだ様子を見せたが、すぐに立ち直った。
「まだ諦めるな! 何かあるはずだ!」
その時、テルヘルが突然立ち止まった。
「待て」
彼女は鋭い視線で洞窟の奥を睨んでいた。「ここには何かがいる」
ラーンの剣が光り始めた。イシェは緊張した面持ちで周囲を確認する。
すると、洞窟の奥から不気味な音が聞こえてきた。それは低く重たい音だった。まるで、巨大な何かがゆっくりと近づいてくる音のようだった。
「何かいる…」イシェの声が震えた。「早く逃げよう!」
ラーンは剣を構え、テルヘルも手を刀にかけた。しかし、その瞬間、洞窟の入口が崩れ落ちた。三人は逃げ場を失った。
「これは…!」
テルヘルの表情が曇る。状況は絶望的だった。
その時、イシェは言った。「ラーン、あの時、洞窟の入り口で拾った石を思い出しているか?」
ラーンは一瞬戸惑った後、顔を輝かせた。「ああ、あの石だ! これは潮時だな!」