ラーンが石の扉を叩き割り、中へと飛び込むと、イシェがため息をついた。「また無計画だ」と呟く彼女の言葉は、埃っぽい空気に吸い込まれていく。
「ほら、イシェ、見てくれ!こんなの!」
ラーンが手にしたものは、錆びついた金属の円盤だった。イシェは慎重に近づき、表面を指で撫でた。「何か刻印があるわね...」
「これは大穴への鍵だ!」ラーンの目は輝いていた。「これでついに、あの伝説の宝物...")
イシェは彼の熱意を冷めた目で見ている。「宝物はともかく、まずはこの遺跡から脱出しないとね。ほら、テルヘルが待っているわ」
その時だった。床から黒い液体が滲み出し始めた。ゆっくりと、粘り気のある液体が広がり、石畳を溶かし始める。イシェは言葉を失い、ラーンは剣を構えた。「何だこれは...!」
「これは...悪夢だ」テルヘルが薄暗い通路から現れた。彼女の表情は険しく、声には震えがあった。「ヴォルダンが...ここに何か封印していたようだ...」
液体が広がるにつれて、壁から奇妙な紋章が浮かび上がる。それはまるで、古代の呪文のようだった。ラーンは剣を振り下ろそうとしたが、テルヘルに止められた。
「無駄だ...この力は...」
彼女の言葉は途絶え、黒い液体が彼女を包み込んだ。イシェは叫んだ。「テルヘル!」
しかし、すでに遅かった。液体の表面には、テルヘルの姿はなかった。ただ、歪んだ紋章が浮かび上がるだけだった。
ラーンは震える手で剣を握りしめ、イシェの手を取り、「逃げろ!イシェ、俺が...」
彼は言葉を失った。彼の背後から、黒い液体が彼らを包もうとしていた。
「...滲出」
イシェは小さく呟き、ラーンの手を離した。そして、彼女は振り返らずに走り出した。
黒い液体の匂いが、彼女の鼻腔を刺激する。彼女は、あの紋章が刻まれた遺跡の壁に、何かを滲出させるような気がした。