ビレーの酒場「老樹」はいつもより活気がなかった。ラーンがいつものように大杯の酒を飲み干す音だけが響いていた。イシェはカウンター越しに、ラーンの肩を軽く叩いた。「また失敗か？」
ラーンは苦笑いした。「ああ、あの遺跡は奥深く、罠だらけだった。結局何も見つからなかった」
イシェはため息をついた。「テルヘルには申し訳ないな。今回は報酬も少なかっただろう」
「気にせぇよ、イシェ。大穴が見つかるのはいつだって分からないんだから」ラーンはそう言いながらも、どこか影を落としていた。
テルヘルは今日もビレーの宿屋に滞在していた。彼女は窓から街を見下ろし、時折眉間に皺を寄せた。ヴォルダンへの復讐を果たすため、彼女は遺跡探索で必要な情報や資金を手に入れようとしている。しかし、ラーンとイシェだけではなかなか思うように進まない。
「彼らにはまだ時間がかかるようだ」テルヘルは呟いた。彼女はヴォルダンとの戦いを急いでいるが、そのために必要な情報は、この辺境の街に滞留しているのかもしれない。
その時、宿屋の扉が開き、一人の男が入ってきた。彼は黒ずんだ旅装をまとっており、鋭い眼光で周囲を警戒していた。テルヘルは男の動きを静かに追っていた。男はカウンターに近づき、一杯の水を要求した。そして、かすれた声で言った。「遺跡について聞きたいことがある」
テルヘルの目は光った。ついに来たのかもしれない。彼女はゆっくりと立ち上がり、男の前に歩み寄った。
「私に相談したいことがあるのですか？」
男はうなずいた。「私はヴォルダンから逃れてきた者だ。貴女が遺跡を探しているという話を聞いた。私に協力すれば、貴重な情報を提供できる」