「おい、イシェ、どうだ？今日はいい感じの空気が流れてるぞ！」ラーンが目を輝かせ、遺跡の入り口に立っていた。イシェは眉間に皺を寄せながら、彼の後ろから地図を広げていた。「またそんなこと言わないでよ。あの日みたいに、大穴が見つかったと思ったら実は巨大な蜂の巣だったなんてことになったら困るわ。」
ラーンの胸は高鳴っていた。遺跡探索に慣れているとはいえ、イシェにはいつも冷静さを保たれていて、彼の計画を冷水のように浴びせてくるからなんだ。だが、今回は違う気がした。何かが彼らを待っているような予感がしたのだ。
「ほら、テルヘルさんだって期待してくれてるんだろ？大金持ちになる夢、叶えなくちゃね！」ラーンは興奮気味に言った。テルヘルは遺跡の奥深くに一人で進んでいた。彼女の目的は遺跡の財宝ではなく、何か別のものらしい。ラーンの無邪気な言葉には答えず、ただ深く沈んだ目で遺跡の奥を見つめている。
イシェはラーンの肩を軽く叩いた。「落ち着きなさい。テルヘルさんの指示に従いましょう。」
彼らはテルヘルの後をついて、遺跡の中へと足を踏み入れた。薄暗く湿った空気と、どこか懐かしい匂いが漂う。石畳の道が続くにつれて、ラーンは緊張感に包まれていった。イシェの冷静さとテルヘルの影のある目的意識。彼らと共にいることで、ラーン自身も何か大きなものを抱えているような気がした。
深く暗い洞窟へと続く階段を降りると、そこに広がるのは巨大な地下空間だった。天井から伸びる鍾乳石が、まるで巨大な水晶の枝のように輝いている。中央には、複雑に絡み合う金属製の装置が設置されていた。テルヘルは静かに装置に近づき、手を触れた。
「ここだ。」彼女は言った。「これが、私が探し求めていたもの…」
ラーンの心臓は大きく鼓動し始めた。イシェはテルヘルの顔色を伺いながら、何かを察知しているようだった。その時、装置から激しい光が放たれ、洞窟全体を赤く染めた。ラーンは目を細め、その光の中に何かを見つけた。
それは、テルヘルと全く同じ顔をした少女の姿だった。だが、その表情はどこか悲しげで、まるで苦しみを背負っているかのようだった。テルヘルは少女の姿を見て、涙を流しながら呟いた。「やっと…会えた…」
ラーンはイシェの肩に手を当て、彼にも少女の姿を見せた。イシェも言葉を失い、ただ見つめるだけだった。なぜテルヘルはこんな場所に、こんな少女を求めていたのか？そして、その少女は何者なのか？彼らは、今まさに、テルヘルの過去と深く繋がる謎に触れることになったのだ。